完全チートのリインが味方にいることにより、StSの時間軸に入る前にかなり自由な行動をと
ることができるようになったオリーシュ。

「StS前にスカさん呼んで、変なことしないように説得とかできたらなぁ」
「わかった」
「ん?」

 そんなやりとりが切っ掛けで、人造人間たちを完成させる前のドクター・ゲロ暗殺を企てるブル
マさんよろしく、ひそかに重要人物との面会が実現してしまうことになった。

「冗談のつもりだったんだが。このまま管理局で手続きして、ノリマキ博士に改名してもらうか」
「……地味な嫌がらせ」
「前からクアの子の名前を、ノリマキ・クアットロにしたかったんだ。まさか実現するとはなあ」
「ちょっと大変だった」
「お疲れさま」

 リインと会話しつつ、戦果たるドクターの前にしゃがみこむ。
 簀巻きにされた上からバインドまでかけられたドクター。リインの前では至難の業だと理解しつ
つも、隙あらば脱出をと内心で警戒を高める。

「やぁ、君は……闇の書の管制人格。そしてその旅の共」
「はじめまして、スコッティ博士」
「スカリエッティだ」
「前から思ってたんですが、その名前ってもしかしてポカリスエッティのパクリエッティ?」

 なんでもかんでもエッティをつければいいというものではない。

「ちがう」
「ちがうと思う」
「そうか。よろしく、アンリエッタ博士」
「どういう間違え方だい」
「デルフリンガーとファーストキスから二人の恋のヒストリーが始まってしまったんだ」

 聞き手は二人とも意味がわからなさそうな顔をするばかりだ。

「何はともあれ、こんにちは、はじめまして」
「はじめまして。それはともかく、そろそろ簀巻きを解いて欲しいところだが」
「それは駄目です」
「あとどのくらいこのままなのかね?」
「10年くらいかな」
「干からびてしまうね」
「『注:このドクターは特殊な訓練を受けています』」

 訓練どころか、生まれてこのかた簀巻きにされた覚えは一度もないドクターだった。
 しかし実際、10年も簀巻きにしたままなのはさすがに可哀想だとオリーシュは思う。
 ただSTS編が荒れるのは御免だ。なんとか説得して悪事をやめさせて、今後の人生を平穏無事
に進行したいところである。

「とにかく。今回はドクターに、ちょいとお話したいことがあってですね……あれ?」
「どうしたんだい?」
「リイン、リイン! どうしよう! ドクターがどんな悪事働くか忘れたんだけど!」

 よく闇の書事件を覚えていたものである。リインはよく自分は平気だったなと幸運に思い、ドク
ターは「理由はないけど誘拐した」というあまりの真実に戦慄を覚える。

「……私にきかないで」
「えー……もういいや。じゃあとりあえずドクター、ごめんね。バインド解くけど、何か飲みます?」
「あ……ああ、いや、ありがとう。いただくよ」

 半ば飲み込まれつつあるドクターだが、バインドを解くと聞いてなんとか踏ん張ることにした。
 直後、バインド以上に強力という不可解な簀巻きに沈黙させられることになるのは別の話である。

「ポカリとアクエリしかない」
「アクエリアスで」
「アクエリエッティ」
「やかましいよ」
「実はアミノサプリの方が好きです」
「聞いていないよ」
「のどかわいた」

 混沌とした会談は、約20分で解散した。
 この三人が時空管理局・最高評議会の乗っ取りを完了する、1年前のことであった。



(続かない)



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