「……むー」

 本日のおやつタイム終了後、休憩とばかりにこたつでくつろいでいると、はやてがむーむー言い
はじめた。聞きつけたシャマルが問いかける。

「はやてちゃん、どうしたんですか?」
「何かなー……調子が出ーへんの。相棒おらんとどうもなぁ」

 相棒とはもちろん、行方不明の某人のことである。
 多かれ少なかれ、それは守護騎士たちも同じであったようだ。常日頃から生活そのものを引っか
き回しているだけあって、居なくなった時に感じさせられるものがあるのだろう。

「はっ。もしかして、これって……恋やろか?」
「変です」
「変だな」
「変かと」
「ですよね」

 三連続の絶妙な突っ込みが入り、はやてはちょっと満足そうである。

「さっき夢で会えたのは嬉しかったけどなー。近くにおらんと、やっぱりちょっとアカンな」
「念話の呼び出しが聞こえたそうですから……何とか動けるといいんですけど」
「待つしかないかもな。てか、アイツを釣る方法を今考えてたところでさ」
「翠屋のケーキ詰め合わせで釣れるかも知れん」
「ヤツの嗅覚が化け物染みていないと効果が無いぞ」

 とか言っていると、そろそろ買い物の時間になってきた。大抵は学校帰りのオリーシュがついで
に済ませてくれるのだが、今は家にいないのでちょっと手間がかかる。
 今日はここ最近でようやく「料理できる組」の仲間入りを果たしたシャマルが着いていくことに
なった。実際は今現在、八神家で最も料理ができる人間になっているのだがはやては知らない。
 味付けに変なものを買ってこないよう、守護騎士念話会議により、全会一致で監視が決まったと
いうことも。

『それにしても……今回は、少しまずいことになるかもしれんな』

 その念話による会話の途中。やや弛緩した空気が流れる中、ぽつんとシグナムが言いだした。

『何が? そりゃ、あいつは訳わかんねーけど。いつものことだし』
『いや、それはそうだが……違う。我々が逃走に使用した、闇の書の魔法のことだ』

 魔法というより特殊な技能に近いものであろうが、それはさておく。シグナムの言葉にヴィータ
が疑問を呈し、返事の後からザフィーラが話に割り込んで、感慨深げにつぶやく。

『それにしても……こうもあっさり頁を使うとは。しかもまるで悔いがないとはな』
『……私たちも、ずいぶん変わったなー』

 しみじみと言うヴィータであった。それには皆同意である。

『話を戻すぞ……管理局にはあれが、はぐれメタルの蒐集によるものだとは直ぐ知れよう』
『確かに。で、それが?』
『アースラの眼は誰に向くと思う? 一人いるんだぞ、海鳴とあの世界で存在が確認され、はぐれ
 メタルと近しくある人間が……一人だけ』
『……なんてこった』

 言わずもがな、例のあんにゃろうである。闇の書関係の情報を得ようとすれば、そちらにも捜査
の手が伸びることは必定。
 さらになのはが知らせれば、この八神家にも捜査のメスが入る可能性さえある。いきなり局員が
どかどかと上がり込むことはないだろうが、知り合いのなのはやフェイト、ユーノやアルフたちを
送り込んでくる可能性はあるのだ。

『あの子を巡って、管理局とまさかまさかの争奪戦……になるんでしょうか』
『すごく……やりたくないです』
『そうならないことを祈りたいものだ……』

 口々にこぼす仲間たちであった。





 そしてシグナムの懸念は悪いことに、半分的中していた。

「闇の書の主……まさか、彼が……」

 とはミーティングでのクロノの言葉であるが、見解としてはアースラのクルーたちも同じである。
 蒐集対象がはぐれメタルであることは、ユーノの証言(傷心のフェイトとそれを慰めるアルフは、
それができる状態になかった)からもう知れていた。それと密接な関わりを持ち、何故か異世界に
移動していたこともある人間。疑いの目が向けられるのはある意味当然である。

「でも……けーと君、リンカーコア持ってないはずなんだけど」
「……それだ。だから断定できないでいる」

 唯一それだけが、彼の嫌疑を「疑わしい」の段階にとどめている材料であった。シグナムの予想
が外れた、その半分というのはまさにこれだ。
 コアが闇の書の影響で縮小している、というのならまだ話はわかる。
 だが彼の場合は縮小でなく、体内にコアそのものが存在しない、以前アースラに乗り込んだとき
の検査でそう判明していた。闇の書の主に限ってそれはあり得ない。それに加えて、どうも彼が書
の主というのはしっくり来ないのだ。

「しかし、捜査の対象にするには十分か……なのは、君が海鳴へ戻るなら……」
「うん。一度、お家に遊びに行ってみようかなって……あれ、ところで、フェイトちゃんは?」
「……よほどショックだったんだろう。アルフと一緒に、気分転換で外出しているよ」
「困ったわね……養子縁組の話、いつ切り出そうかしら」

 指をあごにあてて、うーんと零すリンディ提督。クロノも気にしているようであった。悩めるハ
ラオウン一家である。

「とっ……とにかく! 少ししたら、会いに行ってみるよっ。おうち知ってるから!」
「任せた。僕たちの方は、しばらくこの世界を中心に網を張ってみよう」

 守護騎士たちが知らぬ間に、来襲の日が迫っているようであった。

「じゃあ、来週の日曜日に行ってみるね!」

 来週だけに。



(続く)


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