闇をたたえた夜のような、夜を包んだ闇のような。
 ほのかに優しく温かい、どこまでも続く瑠璃色の闇。その真ん中に浮遊して、少年少女が向かい
合う。

「オリーシュの顔が見たいと誰かが言うので」
「だからってザフィーラとお昼寝中の私の夢に出てくるのはどうかと思うんやけど」

 端的に言うと夢の中でせっかく会えたというのに、何やら複雑そうな顔をするはやてである。

「何故であるか。もっと喜ぶと思ったのに」
「や、もう、何か。夢で会いにくるとか、普通ありえんやろ」
「何でだろね。俺特殊能力ないはずなんだけど」
「存在そのものが特殊やから、似たようなもんやな」

 誉められているのか貶されているのかわかんない。
 で、お互い何でだろう何でだろうと言いながら、互いにつぶさに観察する。こういう夢イベント
は素っ裸が多いらしいけど、二人とも服は着たままでした。ちょっと安心。

「あ。足動いてる」

 夢なら痛くないよねと言ってお互いにほっぺたぐにぐにしていたら、視界の隅っこで普通に動い
ているはやての足を発見。

「夢やしなー……そういえば、検診行ったんよ。また良くなった」
「早く治すでござる。某無免許医師みたく、自分で自分の足手術するべし」
「俺の『赫足』も……ここまでか……!」
「いつもと同じでネタ満載のはやてさんでした」
「いつもと同じでネタ漫才のお時間でした」

 夢の中でまで何やってるんだろう自分等。

「少し生産的な話をしようか」
「了承。で、今どこにおるん?」
「それを言ってはつまらない。自力で頑張って探して下さい」
「喧嘩を売っているのか」

 足が動くからと、はやてが四の字固めをかけてきた。夢の中だからやっぱり痛みはないけど、何
だかちょっと新鮮である。

「まぁ、誘拐された訳ではないので。その点はご安心を」
「書き置きの追伸から明らかやったんやけど」
「ゼミ漫画、今月の分がそろそろ来る気がして。行方の詳細よりそっちを書いてしまいました」

 感覚がないのをいいことに電気あんまされた。らめぇ。





 でまぁ、なるようになるよねと二人で納得して、暫し明晰な夢の中で空中散歩を楽しむ。
 昔は舞空術に憧れたりもしたけど、今回のこれはむしろプールの中にいるような感覚だ。手で平
泳ぎとかしてみると、ゆっくり加速がついていくような感じ。

「これだけはっきり分かる夢も珍しいなー」
「魔法か何かかね。はやてが無意識に魔力使ってるとか」

 ちょっとよくわからない。楽しい空間には違いないのだが。

「眠い」
「夢の中で寝るとかどんだけ」
「昼寝中やもん。身体が睡眠したいってゆーとるのっ」
「ザメハ」
「マホカンタ」

 いつもの軽口。

「闇の書の影響かもしれへんな。ひょっとしたら、やけど」
「そういえば、原作でも夢イベント……なかったっけ?」
「ここまで肝心なことを何一つ覚えとらんオリ主も珍しい気がする」
「誉めるなよ」
「照れるなよ」

 最近ははやてと話してないので、何だか懐かしいやり取りに思えてくる。

「なら、早く帰って来たらええやん」
「や、なんと言うか。誘拐じゃないんだけど、ちょっと動けない状況にありまして」
「シグナム達が念話飛ばしたらしいんやけど、それは? 聞こえとったん?」
「けっこう前から寝てるから、夢の中でさっき聞いた」
「……本当に人間なんやろか」

 失礼な。

「ごはん、ちゃんと食べとる?」
「悟飯ちゃん……や、さすがに同じ鳥山絵とはいえ、ドラクエ世界でDBクロスはちょっと」

 真面目に答えなかったので、狼牙風風拳が飛んで来た。つまり動きは激しいんだけど、感覚ない
から痛くない。

「食べてます。食べてますよー、今日は朝まだだけど」
「早く帰ってき」
「はやてはオリーシュが恋しいようです。いや、ちょっと動けないことに変わりはなくてですね」
「相棒おらんと調子が出んの。移民の街で内政(笑)とか?」
「オリーシュに内政スキルがあると思うのか」
「せやな」

 はやての目が覚めるまで、ずっと雑談してました。

『…………』
「ん? なんやろ、見られとるような……」
「伏線来た! 原作の夢イベント!」
「当てにならん件。そういえば、なのはちゃんとフェイトちゃん。ホンマに魔王と脱衣魔になるん?」
「ゼロの脱衣魔。正式名称、着衣ゼロの脱衣魔」
「真面目に答えんか」

 そんな感じ。



(続く)


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