フェイトは今、リインやはぐりんの速度に追いつこうと、頑張って特訓を重ねているらしい。

「あのレベルを目指すのは、そもそも間違ってると思うんです」
「テスタロッサ。目標は高い方がいいとは言うが、さすがに限度があるぞ」
「そ、そんなことは……うう……」

 やはり自分でも無理があると実感しているのだろう。これから行われる模擬戦の相手・シグナム
にも言われて、なんだか弱気になっているような雰囲気。

「唯一リインに勝てるとしたらカウンターだよ。回避不能の、って条件はつくけど」
「ああ……この間のあれか」
「えっ! か、勝ったんですか!?」
「偶然だ。風圧で取り落としたレヴァンティンが、ちょうど懐に入ったリインの額に当たってな」
「当たったのは柄だけど、あのとき超痛そうにしてたよね」

 ヴォルケンズもガジェット対策、あるいはその他管理局のお仕事(頻度が上がってきた。はやて
の入局と同時に正式に入局するらしい)以外に、たまにリインを相手に体を動かしたりしている。
 模擬戦で勝ったのはこれが最初であり、おそらく最後だろうというのが共通の見解である。リイ
ンの速さに目は追い付くようになったものの、4人がかりでも終始翻弄されっぱなしなので。

「以来、警戒心が強くなったからな。あんなことは二度とないだろう」
「あれからシグナムはリインにすごい尊敬されるようになったよねえ」
「そ……そうなのか? あれは偶然だと言ったのだが」
「バリアジャケットのスカート、ロングにしたいって相談された」
「り、リインさんって、形から入るんだ?」

 など、リインについて話していると、突然部屋の扉が開いた。

「フェイトっ、お待たせ! ……げっ」

 ばーんと入ってきたアルフが、俺を見つけるなり明らかに顔をしかめる。

「お、お前は……えーと、赤毛丸! 赤毛丸じゃないか!」
「今考えんなっ! ふ、フェイト、大丈夫? 何かされてないかい?」
「安心しろ。今のところは大丈夫だ」
「あ、アルフ、何もないから落ち着いてっ」

 こいつらの中で俺はどういう位置付けなのだろうか。てか、シグナムは監視役も兼ねるのか。

「揃ったし、そろそろはじめるか……あ、レフェリーやる! レフェリー超やる」
「お前は脈絡もなく『二歩です』と言いそうで怖いな」
「オリーシュミラクルルールにより、二人とも失格にして審判の勝ちにしたいんだ」
「とりあえず、出てけ」

 アルフに言われてとぼとぼ引き下がる俺を見て、苦笑するフェイトだった。





「あっ、やってるやってる! フェイトちゃん、頑張ってーっ!」
「えっ……な、なのは?」
「よ、余所見しちゃダメーッ!」

 なのはとの仲も、どこか抜けてるところも相変わらずのようです。





 ユーノも最近はかなりスケジュールに空きができたらしく、ヒマを見つけてはハラオウン家なり
うちになり、あるいは高町家とかに遊びに来ている。

「ユーノはドロンジョ様を知っているか」
「え……ああ、こっちのテレビの、キャラクターだっけ? ちらっと聞いたことはあるけど」
「その衣装をフェイトに着てもらう、未来に向けた計画があるんだ」

 パソコンで検索した画像を見せてみた。
 ユーノは「これはないよ」とだけこぼした。

「バルディッシュさんさえ味方に引き込めばイケると思うんだ」
「何がイケるか全く分からないんだけど……あと、それはどうやっても無理だと思う」
「やっぱムリか。別な方法かネタを考えるとするか……」
「実行前には立ち止まって考えなおそうね」
「あまり本気で止める気がなさそうですね」
「いや、ほら、無駄って知ってるし」

 それもそうかも。まぁとりあえず、他にも案はある。フェイトが駄目だとしても「ギンガにギン
ガマンのBGMでセットアップしてもらう。もちろん衣装はセンターマンのスーツで」とか「スバ
ルにロケットパンチ→ヘルズフラッシュのコンビネーションを習得してもらう」などなど、今後に向けてアイデアを温めてお
こう。

「考えれば考えるほど弄り回し計画が浮かんでくるから困るぜ……」
「そ、その中に、まさか私も含まれてるの?」

 センターマン懐かしいな。などと感慨深く思っていると、部屋に戻ってきたなのは(お手洗いに
行ってた。コブはとりあえず痛くなくなったみたい)が不安そうに口を開いた。

「なのはにはナデポニコポにとって代わるかもしれない新要素、『なのポ』を習得してもらう予定です」
「な、何なのそのあやしい単語」
「実は俺もよく知らないんだ。でも、誰かにやれと言われたような気がするんだ」
「自分も知らないことをどうして人に求めるんだろう……?」
「人は足りないものを補いあって生きる生きものなんだ」
「どや顔してるけど、足りなくて問題ないものはその限りじゃないと思うよ」
「なのポはなかったら問題あるだろ!」
「あるの!?」
「あるものなんだ!?」

 俺が信じていることを人に語ると、何故か驚かれることが多いから不思議である。

「どうしてだろう」
「信じるコトが変なんだよ……けーとくんに、異教徒さんの称号をあげよう」
「あ、何だろう。なのはの表現、すごくしっくりくるような気がする」
「いやいや、俺こう見えても敬虔なクリスチャンだから。『ピューリたんとクリスちゃん』って漫画書いちゃうくらいの狂信者だから」
「全然敬ってるように聞こえないよ! ……ところで、どんな漫画なの、それ?」
「昨日描いた。イエスマンなクラスの子に想いを寄せる二人の少女が、下僕な少年ジュージくんをこき使いつつ悪と戦うお話」
「そ、それ読む。読みたい! 見せて見せて!」
「嘘だばーか」

 超怒られた。

「相変わらず平然と嘘をつくね……」
「けーとくんの作り話には、いつも騙されてばかりだよ……」
「でもクロノはあんまり引っかからないんだ」
「クロノは無理だよ」
「それは厳しいよ」

 この二人が口をそろえて言うあたり、クロノはやっぱり凄いポテンシャルを持っているのかもし
れなかった。



(続く)



前へ 目次へ 次へ