本日のおやつはシャマル先生が作ってくれるそうなので、何かな何かなとわくわくして待っていたら、
台所からすごい悲鳴が聞こえてきて、シャマル先生がエプロンしたまま飛び出してきた。

「くっくくくくも、くもくもくもぉ!」

 何ぞ、と思ってキッチンをみてみると、ちょうど立ち位置の目の前にちっこい影が。近づいてよく
見てみると、天井から蜘蛛さんが糸を垂らして下りてきてる。

「なんだ。てっきり黒いアイツかと思った」
「な、なんだ、じゃありません! あ、あ、あ、あんなのが目の前に来たんですよ、目の前に!」
「てぇ」
「っきゃあぁぁあぁぁっ!?」

 かなりテンパってて面白いなぁ、と思っていると、歩行器を使って立っているはやてが、蜘蛛の糸を
つまんでひょいと差し向けた。シャマル先生が再び悲鳴を上げて逃げ、はやては楽しそうにけらけら
笑う。蜘蛛>>>(超えられない壁)>>>シャマル先生、という図式を思い浮かべながら、とりあえず
この侵入者を動かしてあげることにする。

「クモは益虫やから、殺したらあかんの。ハエとか食べてくれるしな」
「にしても、はやてがクモ大丈夫とは知らんかった。黒いアイツ並に嫌がるかと」
「それは例外やろ……あ、知っとる? あれって、実は飛べるんやけど」
「飛ばれたことがあるのでござるか」
「そ。あのときは足が動かんのを本気で嘆いたわ……」

 はやてにも思い出したくない記憶があるようだ。嫌な事件だったね。

「まぁ何とかなったんやけどな。ゴキジェット二刀流が当たらんのなんの」
「あ、あれが飛ぶって……勝てる気しないだろ……」
「や、やめてください……想像しちゃうじゃないですかぁ……」
「シャマル先生お帰り。肩に何か乗ってるよ」
「じょ、冗談でもそういうこと言わないでください!」

 久々に涙目のシャマル先生である。どうやら虫全般があまり好きではないみたいで、リインの服の袖を
握りしめたままだった。

「しかしこれからは、ちっこいリインが氷殺ジェットしてくれるから安心でござるよ」

 しかしちびリインがいることに気付き、これなら大丈夫と安堵する。

「はっ……そ、その発想はありませんでした!」
「さすがオリーシュ、私らに思い付かんことを平気で思いつく」
「そこに痺れろ憧れろ。ところで、ちっこいリインはなんでブリザド使えるんだろうか」
「誕生時の気温があったかかったので、その反動だと思います!」

 魚か何かの性転換みたいだなぁ、と思う。

「じ、じゃあ、わたし、おやつの続き、作ってますねっ!」

 一連の騒動と失態をごまかすかなように、そそくさキッチンに戻るシャマル先生だった。

「シャマル先生足下」
「えっ! や、やぁっ!」
「嘘です」

 涙目でにらまれた。





 ひょっとしたらオリック搭載のステファニー、ならぬリイン2なら、俺ともユニゾンできちゃったり
するかもしれないと思い立つ。

「できるのか」
「できますよ?」
「できますか」
「できます!」

 即答だった。やっぱりと思いつつも、意外な展開にちょっと戸惑う。

「あれ。お前、まだ魔法使いたかったのか? 『もういい』って言ってなかったっけ」
「いやぁ、俺はいいんだけど。でもリインがたまに、気にする素振りするんだ」
「……し、してない」

 リインは否定するのだけれど、この子の場合は顔色から気分が読みやすい。あとは、まぁ何となくだ。
俺の頼みごとなら、何だかんだで色々聞き入れてくれたりするので。

「そ、そんなの、してないっ」
「わかったでござるよ」

 横から抗議するリインをスルーし、とりあえず本題に入る。不服そうにしてるけど気にしない。

「で、合体したら何が使えるようになるんだ?」
「『解除するまでくしゃみが出そうで出なくなる魔法』です!」
「いきなり例のあれですか」

 初っぱなから最強のチートきた。

「他にも『貧乏神がすぐキングボンビーになる魔法』や『声がコロ助と同じになる魔法』など、斬新な魔法の数々が!」

 自分で言うのもなんだが、このときの俺の目はすっごい爛々と輝いていたと思う。

「お前それあたしたちに使ったらぶっ飛ばすからな」
「……許さない」

 だがしかし、ヴィータがすごいぶっとい釘を刺してきた。みんなで桃鉄ではよく遊ぶので、リインも同じく
止めてくる。楽しい光景が見られそうだと踏んでいたのだが、とりあえず命は惜しいので諦めることにした。

「でもでも、そっち系統にますます特化しますので、ユニゾンしたら攻撃魔法はたぶんできないです。残念ですー……」
「何の問題があるや。とりあえずコロ助ボイス魔法だけでも使ってみたい」
「だからやめろって」
「自分にだけど」
「お前にかよ」
「あの声好きなんですよ。とりあえずステファニー、今はユニゾンとかいいので、単独で俺にかけられるか」
「できます! 了解しました、トムさん!」

 そんな感じに、ちびリインの魔法で遊ぶ俺たちだった。

「我輩、コロ助ナリ。好物はメンチカツナリ」

 とか言ったらはやてとヴィータの腹筋が崩壊したので、しばらくコロ助ボイス禁止令が出たのはここだけの話だ。



(続く)

############

別作を書いている+年末は忙しい、で更新遅くなったナリ。



前へ 目次へ 次へ