翠屋貸し切りの二次会も、あっという間に時間切れ。
 お客さんはまだこれから来るらしいので、名残惜しいけどとりあえず撤収。桃子さんたちにお礼を
してから、雪の降る中をさくさく歩く。次は八神家で遊び通すことになっているのだ。

「八神家料理できる組が腕によりをかけた夕食をお楽しみに」
「下ごしらえだけやけど、今回はシャマルも失敗しとらんかったしなー」
「最近腕が上がってんのは喜ばしい限りだよな」

 後ろにいたヴィータの言葉にうんうんと頷くと、その隣のシャマル先生がすっごい嬉しそうにニコ
ニコしてた。一応はやてと俺が近くで別の作業をしつつ監視していたとはいえ、今回は止めなきゃい
けないような事態にはならなかったのである。食べてもらうのが楽しみなのだろう。

「今から帰るって伝えといたぞー」

 後頭部に何かがぱすんと当たる。

「え? いつ電話したのよ」

 背中にもぱしぱしとぶつかる。

「……つ、ついさっき。出る前に、電話借りて」
「ふーん……なんか怪しいけど、まぁいいわ。それにしても降るわね。もう積もってるじゃない」
「明日はいろいろ遊べそーやな。けっこう積もりそうな」

 言ってるヴィータか、アリサやはやても一緒になってるのか。どうなのかはわからないけど、さっ
きから背中に頭に足にぺしぺしと雪玉らしきものが当たってくる。
 しかし挑発に乗るようなオリーシュではないのでござる。そのままさくさくと歩き続け、子供の遊
びに興味はないと無言のまま背中で語る。

「反応しないわね。つまんない」
「そこにちょうどいいシャベルがあったんだけど」
「投石機の要領やな」

 ヴィータが俺に雪のシャワーを浴びせかけようとしてきやがる。さすがに嘘だと思うが、この雪の
中でやられると悲しいくらい寒くなりそう。敵に背中を向けると危険なので、とりあえず後ろを振り
返る。

「そぉい!」

 顔に雪玉ゴッドフィンガーされた。

「あむぁい」

 顔面が凍るような冷たさに襲われながらも、隠していた雪をヴィータの背中に入れてやる。

「はははははやて取って! さささっささむいさむいさむい!!」

 あまりの冷たさに悶絶し、はやてに助けを求めるヴィータを満足げに眺める。

「詰めが甘いわね」

 伏兵のアリサがいつの間にか背後に立っていて、首根っこに雪を押し当てられた。悲鳴も出ないく
らい冷たかった。





「やべーあったかい」
「手がもう霜焼け確定なんですが」

 途中の自動販売機であったかいコーヒーを買って、冷えた顔やら手やら首やらを温める。

「ったくもー。アホなことしとるから」

 はやての台詞は少なくとも、途中までニヤニヤしながら見ていたヤツのものではない。

「アリサが何気に回避してるのがなんかムカつく」
「あら。何ならやってみる? 返り討ちにしてあげるけど」

 くすくすと笑う。しかしなのはの話によると、この娘っ子はとんでもなく運動ができるらしい。
 小柄で軽い子供の身体は動きやすいものの、挑んだ場合こっちも再び雪まみれになりそうだ。ここ
は悔しいが諦めることにして、何か別の件で復讐することを考えよう。

「雪玉でリベンジするなら土龍閃覚えてからだな……」
「雪の上でやったら楽しいことになりそーだな」
「な、な、シグナム! もしかしてできる!?」
「え? その、それはどういう……」

 シグナムに技の説明をしはじめるはやてを見ながら、コーヒーを飲みつつゆっくりと歩く。辺りに
はぼたんみたいな雪がしんしんと降りつづけていた。夜の闇の中を街灯の明かりに照らされて、淡く
ほのかな輝きが幻想的だった。

「これ見ながらこたつ入ってぬくぬくして寝てたい。大福とかみかんとか食べながら」
「贅沢な願いだな」
「でもって台所からいいにおいがするの。お汁粉とかの甘い香りがこう」
「想像しただけで和んじゃうんだけど……」

 なのはが気がゆるんだような表情を見せたが、クロノは首をかしげるばかりだった。どうやらお汁
粉を知らないようだ。今度御馳走してあげようと決める。

「ちなみに三次会は好きに寝たり帰ったりなので、布団が埋まるとこたつで寝ることになります」
「あら。夜中まで騒ぐつもり? ダメよ、日付が変わるまでには寝ないと」

 リンディさんがたしなめるように言った。聞かれてはいけない人に聞かれてしまったような気がす
る。ここは我々の夜更かしのために、秘密裏に買収工作をせねばなるまい。

「自作のキャラメルを作ってみようと思うんですが」
「止めてくれ。却下だ却下。これ以上血糖値を上げようというのか」
「か、母さんダメだよっ、今日はケーキだってたくさん食べたんだし……!」

 コロッと陥落しそうになるリンディさんを必死になって止める子どもたちだった。惜しかったなぁ
と思いながら、到着した八神家の玄関にすずかとアリサが向かうのを見つめるのだった。





 と思ったら、すごい声が上がったので慌てて駆け付ける。

「こ、こ、これ、メタル……?」
「何でゲームの中の生き物がここにいんのよ……」
「け、け、けーとくん! けーとくんどうして!」
「やばいしまった。アリサとすずか居たんだった」

 はぐりんたちに帰ってきたら玄関の扉開けるように言っといたのを忘れてた。どうせ全員魔法メン
バーだしいいやと思ってたんだが、実はさっき二人ともいなかったんだった。やばいどう説明しよう
かと、なのはと二人で超テンパる。

「あああたしは悪くないんだよ!? 説得したけど伝わらなかっただけで!」
「み、耳が……あ、あ、あれ、尻尾? 動いてるわよ!?」

 でもって空気を読まずに登場したアルフ人間フォームの御蔭で、もう完全に容疑かかった。まぁい
いやさてどうしようと暢気に思う俺とは対照的に、真っ白な灰になるなのはだった。



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