パーティーが始まってちょっと過ぎてから、フェレットモードのユーノとわんこのままのアルフを
連れて、シャマル先生が八神家の方向へ移動を開始。シャマル先生は戻る必要がないので、途中まで
の見送りである。
 パーティーのメンバーへの(特にユーノの)顔見せが終わったので、アニマル組はひとまず八神家
で三次会まで待機することになったのだ。
 そういうことなので、会は翠屋屋内へ移動。この時間は一時的に貸し切り状態になってるので、気
兼ねなく存分に話したり食べたりする。
 ……はずだったのだがその前に、なのはから特別プレゼントがあるとこっそり告げられた。
 でもって誘われるまま着いていくと、なんと空中散歩に連れていってくれた。

「…………」
「さっきから上の空やなぁ。嬉しかったん?」
「いやいやいやだってその。凄かったんだって。夕焼けの空がこう! 赤と青の絨毯みたいな!」

 背中に乗ってみたり、直立したままつかまって飛んだり。
 速度は全然出せなかったけど、そんなことは問題じゃなない。二十分くらいあった筈なのがおっそ
ろしいほどにあっという間だった。感動と興奮でまだ心臓がばくばく鳴ってて、今日はもう眠れない
かもしれないと思う。

「寝るつもりなんか」
「いやまぁ今日寝ようとは思わないけど」
「スト2の相手と麻雀の面子足んなくなるだろ。絶対寝んな」

 今日の八神家は力尽きるまで遊びつづけるつもりなので、寝つけなくてもそんなに問題はないのだ
った。

「その……よ、よかった? あの、けーとくん、魔法捨てちゃったから。だから……」
「良かった。超良かった。夢みたいな時間だった。もう俺一生忘れない」

 不安げに聞いてきたのに答えてやると、なのはは嬉しそうにはにかんだ。この発想はちょっと思い
つかなかった、と横でヴィータが言う。魔法ってやっぱすごいんだなと俺が返した。

「えへへ。よかったぁ……どうする? 本当は夜にするつもりだったんだけど、もう一回する?」
「ちょ……頼む。街灯ついたあとの海鳴とかマジ見たい」
「うん、わかった。じゃあ、こっちの会が終わってからだねっ」
「やべぇ楽しみすぎる。あとこれもありがと。大事にします」

 ミニサイズのクリスマスツリーのついたキーホルダーを鍵ごと取り出すと、ちゃらりちゃらりと鎖
が鳴った。なのはからのプレゼントである。
 八神家ではなく翠屋に置いてあったとのことで、フェイトのプレゼント(小さなクリスマスの置き
もの。リンディさんと一緒に選んだらしい)と同時に配られたのだ。アリサから一家に一つもらった
オルゴールや、すずかのいろんなぬいぐるみも加えると、持ち帰る量もけっこうすごいことになって
いたり。

「夜になったら、街が星のかたまりみたいになってそう。これは写真に残さねば」
「星みたいな海鳴……スターオーシャンやな!」

 はやてがまた変なことを言う。

「もう痛いほどに幸せなんですが」
「オリオンはまだ地平線に輝かんのやろか」

 ノータイムで同じネタを切り返してくるはやて。こいつの頭ん中って一体どうなってるんだろう、
と最近よく思うんです。

「しかし、これはお返しをせねば……よし。お礼に、逆上がり達成の感動を与えてくれる」
「え……い、いいよ、お、お、お返しなんてそんな、さ、さっきすごいのもらったし……!」
「桃子さん桃子さん! なのはに逆上がりの特訓をしたいんですがかまいませんねッ!」
「わ、わぁっ! わああぁぁあ!」

 顔真っ赤にして必死の様相を呈するなのはだった。しかし間に合わなかったようで、しっかり気が
付いた桃子さん。目が明らかに笑ってる。

「い、い、言わないって約束! 約束!」
「指きりしなかったから無効でござる」
「うぅ……じゃ、じゃあ今して。今すぐ、ほら」
「なのはが俺に指を詰めろと言う」
「うそつき前提になってるよう!?」

 だっていつ遊びたくなるかわからないし。

「も、もう! せっかく連れていってあげたのに! してあげないよ、もう!」
「じゃあ俺も、なのはいじりを卒業することにする」
「えっ……い、いいもん。べつに、けーとくんになんてそんな、遊んでもらわなくたって……」

 言葉に反して、なのははしゅんとなってしまった。耳がぺたんと伏せたわんこみたいな雰囲気。

「嘘。うそです。冗談でしたー」
「……ふ、ふーん。な、なーんだ。本当でもよかったのに」

 尻尾つけたらぶんぶん振ってそうなくらい復活するなのはだった。横に座ってるはやてとヴィータ
がめっちゃ笑いをこらえてる。

「なのはがおもちゃにされてる……」
「遊んでて楽しいです。いつも大体こんな風です」
「よくわかったよ」
「こんな感じなんだ」

 ちょうど近くに高町ファミリーがいたので説明する。なのはははっとして振り返り、ちがうもんち
がうもん言って抗議した。

「いじくりまわして喜ぶドSがおる」
「なのはがMなだけなんじゃないかと思うんですが」
「……懐かしの補完計画、どーやら成功してたみたいだな」
「成功しすぎて別な生き物が出来上がってしまいましたが。第三期どーなるんだろ」

 十年後に思いを馳せる俺たちだった。 

「け、けーとくんも黙ってないで! 何か言ってよ、誤解されちゃ……」
「お黙り」
「日だまり」
「吹き溜まり…!」

 はやてとヴィータが拾ってくれたおかげで、ものの見事な連携が決まった。ちょうど帰ってきたシ
ャマル先生に、助けを求めて泣きつくなのはだった。





「やっぱり女子どもは超うるさくて困る」

 クロノとシグナム、あとフェイト。一通り騒いでから、そんな感じの落ち着いた面子のい
るテーブルに足を運んだ。

「一番はしゃいでたアンタが言うんじゃないわよ」

 すれ違いざまにぽこんとアリサが頭を叩いてきたのは御愛嬌である。間違ってないので言い返せな
いし。

「だいたい男女比おかしいだろこれ。ユーノも戻っちまったし」
「ここも女性が半分以上……ああ、今のでちょうど一対一になったかな」
「管理局もやっぱ女性が多いの?」
「そうでもないよ。ここが異常なだけさ」

 管理局には男性の職員もちゃんとたくさんいるとのこと。

「そういやクロノのプレゼント、あれなんだったの? まな板みたいだったけど」
「箱の中に説明書を入れておいた。それを読んでのお楽しみさ」
「お楽しみ?」
「お楽しみ」

 楽しみにしててもいいらしい。

「楽しみ」
「楽しめ」
「楽しむ」

 クロノがあったかいコーヒーを口に含み、俺はクッキーをぽりぽりと食べる。

「あの」

 すると、横合いから控え目な声がかかった。見るとフェイトが、仲間になりたそうな目でこちらを
見ている!

「仲間にしてあげますか?」
「いつの間に君の敵になっていたんだ?」

 しかしよく見ると仲間になるのではなく、何かを聞きたそうな雰囲気でした。

「何? どうしたの」
「あ……い、いえ、なんでも」
「話したいことを話さない兄妹ですなぁ」
「悪かったな」

 クロノがむすりとした。

「そうだ。言い忘れていたが、さっきのケーキはなかなか美味かったぞ」
「ん? ああ、シグナムは食べてなかったんだっけ」

 思い出したようにシグナムが言う。八神家でのパーティー一次会でもふるまったけど、その時には
食べていなかったらしい。その時はいろんな人と話をしていたみたいで。

「色々とダメ出しされちゃいました」
「まだ改良の余地があるのか……」
「まだまだ美味くなるってこと。超楽しみなんですが」

 焼き加減甘さ加減クリームの泡立て方混ぜ方等々、自信はあったのだがいろいろな改善点を指摘さ
れたのである。
 しかしそこをもっと突き詰めていけば、次にはもっと美味いものができる&食えるはず。本音言う
とちょっとうずうずしてる。次を作るのが楽しみである。

「もういっそこの店で働いたらどうだ」
「それは……客が増えるのか減るのか予想できない」
「むしろなのはが成長してから、わざわざ翠屋の目の前に店開いてやるっていう案がですね」
「いっ、嫌がらせだ! それ絶対嫌がらせでしょうっ!」

 話を聞きつけたなのはがうるさいので、とりあえずプチケーキを口の中に突っ込んで黙らせる。し
ばらくもがもが言ってたけど、そのうちむぐむぐ食べ始めたので大人しくなった。

「俺は将来何で生計を立てるんだろうか」
「君の場合はまったく想像できないな」
「何もしなくても案外死なないのではないか?」

 そんな気はしなくもないけど、それではあまりにも人間離れしすぎてやしないか。

「それとも案外、十年後も主に養われてたりしているかもしれんな」
「容易に想像できるよ」
「しかしそれだと、今のヴォルケンズと同じですなぁ」

 コーヒーを飲もうとしてぴしりと硬直するシグナムだった。





「つけ髭とこれを着るのか。サンタクロースの衣装じゃないか」
「トナカイに変装って……できなくもないけど……」
「ていうか、どうしてつまみ食いしたパンの中にメッセージカードが入ってるのよ……」
「……あの子は本当に一体何者なんだろう」

 首をかしげるグレアム一派だった。



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