トイレから出て手を洗っていると、玄関チャイムがピンポンと鳴った。
 ちょうどいいやと思ってがちゃりとドアを開けたのだが、その向こうに現れたのはなんとなのはだ
った。
 予定ではパーティー一次会開始直前、なのはが翠屋のケーキを持ってくる手はずになっていた。だ
からなのはがそこにいる可能性はあったのだが、すっかり失念してしまっていた。何を言えばいいの
か分からなくなる。謝っちゃえばいいはずなんだけど、いざとなると言葉が口から出てこない。

「……と」
「あ……えと……」

 それはなのはも同じだったみたいだ。互いに何か言おうとまごまごするのだが、結局何も口にでき
ない。結果見事にお見合い状態。

「…………ふ、ふーんだ」

 それでもどうにか謝ろうと口を開いたところで、なのはがそっぽを向いてしまった。
 そのまま家の中に入っていったので、慌てて追いかけることにする。そして言う。

「すまん。本当すまん。今度砲撃の的にでも何でもなります。今度は嘘じゃないです」

 追いついてローリング土下座。

「いや、それ重症じゃ済まんと思うんやけど」
「お前本気で言ってんのか」

 やっと出てきた最大限の言葉でなのはに許しを乞うたが、はやてとヴィータの突っ込みでそれが死
亡フラグだったと知る。早まったかもと思い、盛大に冷汗が吹き出る。

「だーめっ」

 しかし当のなのはは相変わらずつーんとした態度である。はやてと一緒に室内に入ってしまい、俺
一人が玄関に取り残される形になった。

「そのうち許してくれるだろう。行くぞ」
「…………」
「動けないなら」
「ごめんなさい行きます」

 軽く凹んでいたのだが、このままだとザッフィーに家中引き回しにされるような気がした。大人し
く部屋に戻る。

「焼き土下座したら許してくれるんだろうか……」
「とても耐えられない気がするのだが」
「おもしれ。引っ張っても反撃ないし」

 応答しないのをいいことに、ヴィータが俺の耳やら鼻やら頬やらで好き勝手遊ぶ。

「ん? ……いたっ、いいいいたいいたたただだああっ!!」
「……はっ」

 無意識にそのヴィータの身体を絡め取り、コブラツイストをかけていることに気付く。

「は……はなせ! はなせって……い、いたい痛いいたい!」
「素数を数えて冷静に考えるから、ちょっとまっててくれ」
「無限に続くだろそれっ! 早く解けはやくううううあああああ!!!」

 どうしようどうしようと思いながら、そのまま技をかけ続けることにする。
 しかし技を解くと案の定ヴィータからの反撃に遭い、手足がどこから生えてるのか分からんような
珍妙な生物にされてしまう。
 びっくり人間のパフォーマンスみたいな。関節が痛くて仕方ない。

「ヨーガヨガヨガヨガヨガ……」

 どうしようもないのでダルシムの真似をしたら、ヴィータとはやてに受けたらしく爆笑される。

「できればそろそろ元に戻りたいのですが」
「次はブランカ! ブランカにしよ!」
「えー。髪そろえてガイルにしたいんだけど」

 体色か髪型かはわからないが、いずれにせよ体の一部がとんでもないことになりそうだ。あまりに
も怖すぎる。

「あ。ダルシムなら、手も伸ばさんと」
「何メートルだっけ。ものすっごいのびるよな」

 手足がこんがらがった状態のまま、悪魔二人から頑張って逃げようとする俺だった。

「あ、逃げやがった!」
「なのはちゃんつかまえて! バインドでホールド!!」
「え? え、あ」

 思わずといった感じのなのはが俺を拘束し、お見合い再び。

「……」
「…………」
「……腕伸ばすの見せてくれたら、許してあげる」

 \(^o^)/





「あのね? だから、その……そう。程度の問題なのっ」

 あんまりにも無理難題過ぎたので、すみませんそれはできないですとなのはに謝罪。
 すると正座させられて、衆人環視の中ハイパーお説教タイムが敢行された。こちらとしては恥ずか
しいことこの上ないのであるが、これでなのはの気がやっと晴れてくれそうなのでちゃんと聞く。

「遊んでくれるのは楽しいけど、えと……優しくしてほしいの。お兄ちゃんみたいに」

 エロゲ主人公並みの性格の良さを期待されてもちょっと応えられない可能性があるけど、ここは素
直にうなずく。

「あ……でっ、でも、イヤじゃなくて……遊ばれるのはその、えっと、嫌いじゃないっていうか……」

 なのはの主張がどっちなのかよくわかんないや。

「まーまー。その辺でその辺で」
「そろそろケーキ切りますよーっ!」

 はやてが宥め、シャマル先生が呼びかける。猛烈なダッシュではぐりんたちがテーブルに向かい、
リインとリンディさんが仲良く期待に満ちた目でケーキの箱を見つめた。ヴォルケンリッターの皆も
ハラオウン兄妹も手伝いに向かい、はやてとなのはが俺と一緒に取り残される。

「なのはちゃん、言ってることが一貫しとらんよーな」
「えっ……」

 なのはは一瞬思考を巡らせた。

「あ、あの……あのね? ……イヤだけど、イヤじゃないの」

 でもやっぱり曖昧ななのはだった。語彙力の問題なのかどうなのか。

「とっ、とにかく! けーとくんは今後、嫌がられないよーに遊んでくれたらいいのっ!」

 微妙な感じのはやての視線を受けて、なのはが誤魔化すように言い放つ。

「うん、済まんかった。程度を注意するので、今後も遊ばれてくれると嬉しいです。ごめんね」
「あ……う、うんっ」
「なのはちゃんが玩具でいいよ宣言してる件」
「はやて、録音。録音しといた」

 ヴィータからレコーダーを受け取ったはやてと、それを奪おうする顔真っ赤のなのはの間で追いかけ
っこが勃発。しかし片方は松葉杖のため、あっという間に捕捉される。

「なのはって説教すんの下手だよな」
「確かに。あと関係ないけど、録音とロックオンって似てるよね」
「本当に全然関係ねーな」
「カンケイケーイ!」
「カンケイケーイ!!」

 はやてがなのはにぽっこんぽっこん叩かれて、ヴィータと俺がそれを眺めていて、何とか仲直りが
完了して、ケーキ入刀と共にパーティーが開幕するのでした。



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