「大丈夫かなのは! なのはがチョコラータにカビ塗れにされて死ぬ夢見て飛んできたんだけど!」

 笑えない悪夢が正夢ではないかと心配して様子を見に上がったのだが、何が気に入らないのかチ
ョップされた。そのまま二度三度と、ぴちんぴちんと。

「痛いですよ?」
「夢の中の、わたしの扱いにっ! 改善をっ! 要求しますっ!」

 言う度にぴちぴち叩いてくる。しょせんは女の子の細腕だが、額は案外皮膚が薄いので打撃がと
てもよく響く。

「セッコにドロドロにされる方が良かったか」
「そういう意味じゃないっ! 死因から離れるの!」
「なんだ。まぁいいか、なのはが生きててよかった」
「え? あ、うん……あ、ありがとう」
「それで、グリーンデイのスタンド発動はまだ?」
「話が戻ってるよぉ! チョコラータさんもセッコさんもここにはいません!」
「千の風になったのですな?」
「ならなかったのですな!」

 なんだつまらん。

「帰って『シャーリーとチョコレート工場』の脚本でも書こっと」
「ほんとに何しに来たのこの人……あっ、いない! もしかして本当に帰ったの!?」

 なのはの無事も確認したので帰宅する。高校に上がってはや2年、いよいよ第3期が近づいてき
ていた。来るべき全員集合の時に備えて、各人に対する適材適所を考えなければならない。
 八神家に戻り、しんしんしんと雪が降るなか、ストーブの前を占拠しつつネタ張を埋めていく。
こういう時には大抵ヴィータがどこからともなくやってきて、横からいろいろと口を出してくる。
 StSのシャーリーさんがチョコレートの川に落ちる話をヴィータと作っていると、チャイムが
鳴った。と思ったら誰かきた。

「おー、なのはじゃん。雪まみれでどうしたんだ?」
「ささささささむい」

 あんまりにも寒そうにしているので、第一声を放ったヴィータが見かねて熱い茶を取りに行った。
なのははというと飛び込むようにこたつに入り、そのまましばらく出てこない。

「高校生にもなって落ち着きないなぁなのはは」
「普段はもっと落ち着いてるもん……人のペース乱しておいてひどい言い草にもほどがあるよ……」

 こたつの中から声がしたと思ったら、顔だけ出てきた。はやてによると最近のなのはは学校では
わりと大人びているらしいが、男女別なのでその辺はよくわからん。

「で、どうしたんだよこの雪の中。ほら、お茶」
「ああ、ありがとう……うう、指がかじかんで全然動かないよ……」
「レンジでチンすれば動くんじゃないか? マイクロ波だけに」
「ナノ波って言いたいの!? かめはめ波みたいになってるんですけど!」
「ディバインバスターも似たようなものじゃんか」
「えっ。そ、それはそうだけど……あれ?」

 ぐだぐだとヴィータと話しているなのはを尻目に、ネタ帳を眺めつつ茶をすする。お腹はぽかぽ
か、足もぬくぬく。

「あっ、そうだ。けーとくん、けーとくんっ」
「グリーンティうめぇ。グリーンデイだけに」
「今日はやたらその話を引っ張るよね……」

 なのはは諦め気味の視線をくれた。まぁ、いつものことです。

「まぁいい、なんだい。翠屋のセールには明日行くけど」
「そうじゃなくて。……さっきのけーとくん、バレンタインのチョコもらいにきたんじゃないの?」
「あっ、そういやそうだった。いやぁ、朝見た夢が強烈すぎて、今日が何日か忘れかけてたわ」
「夢の中のわたしって……カビカビになって死んじゃうって……」
「最期はジョルノさんの無駄無駄の巻き添えになってたよ。見事にゴミ収集車行きだった」

 燃えるゴミは月水金と言おうとしたら、口の中にチョコ突っ込まれた。

「むぐむぐ苦い! 苦いぞこれ!」
「苦くしたんだよっ。けーとくんの気付けには最適だと思います」
「まだだ。俺を正気に戻そうとするなら、少なくともカカオ100%でないと」
「それならもうカカオ豆でもかじってなよ……」
「おお、節分の豆の代わりにまくのはありだな……来年はこれだぜ、ヴィータ!」
「今年は誘導弾代わりに福豆使って模擬戦したからな……いや、カカオ豆は入手が厳しくないか?」

 なのはは終始「何やってるのこの人たち」という目をするばかりだった。

「ともあれ、ありがとね」
「ったくもぉ……感謝してよね?」
「なのは。あたしの分はどこだ」
「あ、ヴィータちゃんのあまーいミルクチョコはこっちだけど」
「そっち寄越せよ」
「てめぇはカカオ100%でも食ってろ」

 甘いチョコは奪えず、苦いチョコをむさぼってました。



(続かない)



モドル