ザフィーラとヴィータが、管理局にお手伝いに行くことになった。なんでもロストロギアっぽい
のが見つかったらしく、その調査をするらしい。ついでに俺も遊びに行くことにした。見学+付き
添いにて候。
 取りあえず移動まで時間があるので、局の建物の控室でくつろぐことにした。リンディさんたち
ハラオウン一家は作業に出て行ってしまい、室内にいるのはヴィータとザッフィ−、はぐりんたち
と俺。

「標準装備のバリアジャケットに加え、はぐりんズを装備したヴィータに隙は無かった」
「やってみたいけどやめとく。重量オーバーだし」

 万が一の時はヴィータ無双を期待したんだけど、あんまりにも重いのを理由に断られた。
 確かに、接近戦メインのヴィータやシグナムにははぐりん装備はキツいかもわからんね。足を止
めて撃ち合うタイプのなのはだったら問題ないかもしれないけど。

「ところで、どうしてお前が付き添いに来てんだ? 何もできないと思うけど」
「はぐりんたちもここでちょっとアルバイトする約束だし、見学にちょうどいいと思って」

 以前言っただけだったのだけれど、意外にもはぐりんたちが乗り気だったので、本格的に実行す
ることにしたのである。幸いクロノが面倒みてくれるみたいだし。

「待て。ということは、まさかお前も……」
「いやいやいや。前線出るとか無理だから。たまに監督はするけど」
「そうか。なら安心だが……たまに、でいいのか?」
「リンディさんとクロノの指示聞くように言っとくから大丈夫」

 何だこの理不尽、という顔でザフィーラが俺を見る。多分どうして言うことを聞かせられるんだ
ってことなんだろうけど、できちゃうものはできちゃうので仕方無い。俺に説明責任は無い。

「その理屈で言うと、ヴィータたちも言うこと聞くはず。ヴィータ、ジュースよこせ」
「トマトジュースならすぐ作ってやるけどいいか?」

 ヴィータがパキパキと指を鳴らした。俺を潰れたトマトみたいする気だ。残念ながら二回死ぬの
は御免なので、潔く平伏する。

「あっ、あの……あの!」

 必死こいて謝罪していると、部屋にフェイトがやってきた。後ろにアルフと、クロノの姿もある。
 手には渡しておいた参考書(はやてのオススメ)。挟んである一回り大きな紙には、ぴっちりと
書き込みがされていた。
 地球の学校の勉強だ。編入を狙っているので、魔法の勉強と並行してこちらも頑張っているのだ。
 ちょうどいいということなので、先生役を頼まれたのである。と言ってもフェイトさん頑張り屋
だから自力で結構やるので、こうして答え合わせの時にコメントしてあげるくらいしかできんけど。

「終わったとな。不正解一問につき一枚脱ぐという規定がありますが、本当によろしゅっ」

 つかつかと歩いてきたクロノとアルフの拳骨が、はやての比じゃなく痛かった。少しの間悶絶し
て、立ち直ってから答え合わせ。

「おー、全問正解。これはすごい」
「ほ……本当ですか?」
「うん。じゃあご褒美をあげよう。はやてから、差し入れのガトーショコラ」

 はやての手作りを嬉しそうに食べるフェイトを見つつ、皆でおいしくいただきました。

「……うまい……」
「うまいなぁ……」
「……コア捨ててよかったとしか言いようがないでござる」

 俺達ははやての手料理が元に戻ったことにしみじみとした感動を覚えたんだけど、クロノた
ちは事情を知らないためしきりに首をかしげていた。





「そういえば、クロノはどうする? クリスマスに八神家と翠屋でパーティーやるけど」

 今度はクロノと、しばらく待機。フェイトにアルフ、シグナムとヴィータは今、ちょうどリンデ
ィさんにお仕事の説明を受けているところ。皆への差し入れで持ってきたアイスコーヒーを飲みな
がら、残されたクロノと話す。はぐりんたちはお昼寝中。
 俺も説明受けに行ってもいいんだけど。でもちらっと任務の資料を見た時に、ああこりゃ無理だ
という結論に至った。魔法の仕組みとか知らないので、ロストロギアやら周囲に予測される影響と
か説明されてもわかんない。はぐりんたちは今日は見学だけだし。

「何時だ?」
「一週間後。おいしい料理あるよ」
「そうだな……少しなら、顔を出せると思う。ところで、クリスマスとは?」
「ググれ」

 しかしスしか合ってない上に、クロノはグーグル先生を知らないようで首を傾げた。地球ではワ
ールドワイドなグーグル先生だけど、世界をまたいじゃうと流石に知名度が下がるらしい。

「偉い人の誕生日」
「なるほど……そう言えば知らないんだが、君の誕生日は?」
「クリスマス。つまり俺は偉い」

 冗談だったんだが、クロノにしらーっとした目で見られた。ちょっと辛かったので本当の誕生日
を教えておいた。

「この日……だった。うん。そう」
「?」

 その際だけど、思わず転生前の誕生日を言ってしまってちょい慌てた。こっちの戸籍と一致して
いたか、一瞬だけ忘れていたのだ。
 大丈夫だったと思い出したけど、クロノは不思議そうにする。これはちょっとマズい。

「ところでそのパーティー、手作りお菓子あるって知られて、リンディさんはすでに参加表明済み」

 コーヒー飲んでたクロノがむせた。誤魔化しはうまくいったようだ。
 とかやりながら、やることがないので雑談。クロノも今は休憩に近いらしく、時折任務資料に目
を通す以外はくつろいだ雰囲気である。

「言ってなかったけど、闇の書事件の後始末お疲れ様。ありがとです」
「破壊した君のコア、魔力量だけなら軽くAランク以上はあったんだ。説明に苦労したよ」

 苦笑しつつクロノは言う。これは苦労かけちゃったかもわからんね。

「……口が滑った。言うつもりはなかったんだが……気にしないでくれ」
「いやいや。縁の下の力持ちだったわけですな。感謝」
「ところで、フェイトは? 編入は大丈夫か……君の見立てはどうだ?」
「飲み込み早いからギリギリ間に合いそう。あれかね。なのはと一緒に学校行きたい一心かね」

 クロノは安心したように息を吐き出した。

「今のうちに地球の常識を教えとくのもありかも。やっておく?」
「……羞恥心も育ててあげてくれ。例の軽量バリアジャケット、まだ持ってるみたいなんだ……」

 どうしたものか、とクロノは頭を抱えた。また脱ぎ捨てを見られる余地があるみたいで、ひそか
に俺はほくそえんだ。

「……顔がにやついているが」

 そのつもりだったんだけど表に出てしまった。クロノが非常に怖い顔になったので、必死に謝っ
て切り抜ける。

「また謝っているのか」

 そこに、皆が戻ってきた。ザッフィーとヴィータが呆れたように俺を見ていた。

「お帰り。何調べるって?」
「古代文明の兵器。ガセか分かんないけど、大陸一つ吹っ飛ばしたって伝説もあるらしーぞ」
「じゃあ俺も! 俺も伝説に……あれ。どうやったら伝説になれるんだろ」

 メイクレジェンドしてみたかったけど、どうすればいいのかわからず悩ましい。

「上層部では結構知られているぞ。魔法の才能を放棄した例は稀だから」
「何と……じゃあ、それを機にテレビや雑誌からの取材が来たりとか!」
「それはない」
「あり得ねー」
「取材しても記事が書けない気がするな」

 あっさり否定されて悔しかった。特に最後のクロノがひどかった。

「こうなったら伝説になるにはもう、ドラクエ世界で魔王を倒すしか……!」
「お前の場合は仲間にして帰ってきそうで怖いな」
「ゾーマ様はともかく、バラモスくらいなら何とかなるよーな気がする」

 一歩間違うとはらわたを食らいつくされるので、魅力的だがやめておこう。

「なのはは最近魔王っぽくないから倒してもなぁ。この前腕相撲で撃破したし」
「ああ、見た見た。腕二本使って頑張ってたよな」
「うーうー掛け声出すのはいいんだけど。でも全然力が入ってないっていう」

 なのはは砲撃とか超すごいけど、素の状態だと腕力はへなちょこなのである。具体的に言うと、
ドッジボールではボール持たせてもらえないんだろうなぁ。というレベル。

「そ、そうなんだ」

 話を聞いていたフェイトが、意外そうに呟いた。

「今度腕相撲してみるとわかると思うけど。意外でござるか」
「うん。その、なのはの魔法、威力が高いから……そのイメージなんだけど」
「しかし実際は逆上がりも出来ないなのはであった」

 ソースは桃子さん。お菓子の作り方とかいろいろ話をすることがあるんだけど、そのついでに
聞いたネタである。

「はやてはこれから足とか鍛えるけど、なのはも全身やった方がいいかもね」
「オリーシュブートキャンプと申したか」
「語呂がいいな。ちょっと変装してやってみろよ」
「あ、あの……ブートキャンプって?」

 任務開始までずっと駄弁ってました。



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