とにもかくにも、お話はおしまい。会話は常備してあるレコーダーに録音しておいたので、急い
でアースラに戻る必要もない。ということで早速お店の人を呼んで、皆に料理を出してもらう。
 食べてもいきなり戦ったりしないでねと、クロノに一応釘を刺しておく。しかしそれも要らぬ心
配だったようで、あっさり約束してくれた。
 シグナムたちが闇の書の一部として、クロノの親父さんの死について謝っていたのも大きかろう。
 どうすることもできなかったと頭を下げる一同を制し、母にも一度会って欲しいとクロノは言っ
た。そのときの表情はやっぱり複雑だったけれど、水のように静かな視線が印象的だった。

「クルトンでも食ってろヴィータ」
「ドレッシングでも飲んでろオリーシュ」

 とりあえずサラダが出てきたので、安心していただきます。食べながらてきとーにヴィータと遊
んでみたが、あまりにも不毛なやり取りだったのでやめておく。

「ところでクロノ、さっきの何? 知り合いだったの?」
「いや、知り合いと言うか……一度会っていただけだが、たった今思い出して……」

 隣のユーノから問いかけられて、珍しく答えにくそうにするクロノだった。たしかに知り合いに
してはよく覚えてたけど、友達と言える付き合いがあったわけでもない。微妙な関係である。

「食に問題有りの家族を持つ仲間です」

 視界のすみっこで守護騎士がうなずいたのは内緒である。シャマル先生だけは身に覚えがあるら
しく、目に見えてしょぼくれていたけど。

「なのはつながりでアースラで会った、あれが二回目だったのか」
「そだね。あの時はまさか、今日みたく対戦することになるとは思わなかった」
「僕も、今日がこんな日になるとは夢にも」

 おとりを使った追いかけっこに十面埋伏、でもって和睦の食事会である。確かに予測できまい。

「……僕は君が、あんなにすごい魔物使いだったとは知らなかったな……」

 と、クロノの隣のユーノがぽつりと言った。なのはが餌付けしているはぐりんたちを、視線の先
に見つめている。ダーマの神殿とか行ったことのないオリーシュだけど、いつの間にやらてんしょ
くしていたのかと胸が踊る。

「それはないと思います」
「ヒモの分際で転職とは片腹痛いわ」

 シャマル先生とザフィーラに二人がかりで速攻否定された。やるせなくて死にそう。

「まぁ、あれはてきとーにお願いしただけなので。本職はただのヒモです」
「本職ヒモって……」
「でも、魔物は何故かなつくんだよな。ヌギ……ネギま! の世界だったら、地底のドラゴンとか
 京都の巨人とかどうなるんだろ」
「ドラゴン……?」

 ユーノは首をかしげた。言い間違えたのは気にしない。

「ていうかお前転職しないでいいから、命名神に頼んで名前変えてもらってこいって」

 ヴィータが葉っぱをむしゃむしゃしながら横から言った。

「……………………その発想はなかった」

 不覚にも一瞬本気で実行しようと思ってしまった。恐るべきはヴィータである。





「戻ったよ。肉はまだ残ってるよね?」

 雑談していると、そのうちアルフがもどってきた。聞くとフェイトの看護が終わったらしく、そ
ちらもすぐ来るとのことである。ちょうど肉やらスープやらパンっぽいのやらが大皿で運ばれてき
たところなので、タイミングとしてはちょうどよかったかも。

「目は覚ました?」
「ん。大丈夫だから先に行っててって……ん? 何してんの?」
「お手。ほら、お手」

 さっそく遊ぼうとしたら、アルフ本人から拳骨が飛んできた。はぐりんマスターたるオリーシュ
といえども、人の使い魔は懐柔しにくいらしい。

「トレーナー戦でモンスターボール投げるようなものなのか。ドラクエモンスターズだと、他国マ
 スターのパーティーから懐かれたりするのに」
「何の話だっ!」

 アルフはご立腹のようだった。

「あっ、あの……アルフは、モンスターじゃ……」

 そしてフェイトも現れた。
 もちろん脱ぎきったまんまではなく、今は近くの店で買った天使のレオタード……はなかったの
でぬののふく。羽織ってる上着は俺が着てたやつである。

「…………」
「…………」

 おっぱい星人のオリーシュはあくまで脱衣という過程を評価するのであって結果は興味ないんだ
けど、ユーノとクロノはそうもいかなかったみたい。恥ずかしそうに顔を背けた。これは仕方ない。
フェイトの脱ぎっぷりのせい。

「……?」

 視線を外す二人の様子を見たフェイトは、しかし理由が把握できてないみたいだった。
 ……着てなかった服を着てる時点で、何かあったと気付くと思うんだが。どうしたんだろ。

(アルフもしかして騙してる?)
(……な、何のこと?)

 こっそりアルフに訊いてみると、尻尾がくりくり不審な動きをした。どうせバルディッシュが最
後の魔力を使ってついさっきまでジャケット維持してくれてた、とでも説明しておいたのだろう。
わかりやすいわんこである。

(……バルディッシュさん、略してバルサン)

 虫タイプに強そうだ、と思う。言わないけど。

「フェイトちゃん……そっ、その、お疲れさま。り……料理、まだ来たばっかりだよっ」

 なのはは誤魔化すように言う。アニメによると親友だったらしいけど、それでもさすがに動揺は
しているようだった。脱ぎ方が脱ぎ方だし仕方のない話である。

「ヴィータちゃん、ヴィータちゃんっ!」
「あっ、あわ、あわわっ」

 そしてヴィータはシャマル先生に言われて慌てて、デジカメを隠していた。家に帰ってからにしな
さいっての。
 とか色々と挙動不審だった一同であるが、理由を知らないフェイトは特に追及することなく部屋
に入る。

「みんな……ごめんなさい。私だけ倒れちゃって……」

 そしてしゅんとした。結構こたえていたみたいだ。結果的に足止めには成功したものの、その後
魔力枯渇に疲労が重なって行動不能。しかもそれが自分だけときたも。気にするのも無理はない。

「テスタロッサ、そう気に病むな。お前は確かに速かった。私が守勢に追い込まれるほどにな」

 慰めという訳ではないが、とシグナムは続ける。脱ぐ脱がないはともかく、あのときのフェイト
の実力は認めているようだった。

「あれほどの苦戦は初めてだった……私も、まだまだ未熟者らしい」

 そりゃそうだ。あぶない水着の相手は初めてでしょうに。

「はい……あっ、あなたは……」
「おろ」

 なんか呼ばれた。嫌な予感。

「あの……ありがとうございましたっ! 私、アドバイス通りに……」
「そぉい!」

 知られるとちょいマズいので、氷を入れ物ごとひっくり返して誤魔化す。

「にゃぁぁあっ!?」

 宙を舞った氷たちは、なのはの服の背中やら首筋やらに入った。

「つっ、つめ、つめた、つめたぁっ!?」
「なっ、なのは、大丈夫!?」
「脱いだら直ぐに取れるやも。ハイパー脱衣タイム始まるよー! 魔王がついに脱ぎ捨てタイム!」
「ぬ、脱がないよっ! けーとくんのばかばかすけべ!」

 真っ赤になったなのはに追い回されて追い付かれ、馬乗りになって背中を叩かれた。



前へ 目次へ 次へ