とある目的により八神家にこっそり帰還したはいいが、親切心のまま行動するあまりうっかり見
つかってしまった。客がいるのは靴でわかったけど、なのはだったとは。これは知らんかった。
 でもって大声を出されてしまい、それを聞き付けたのか足音がする。
 これは見つかったか、と思ったのだが、なのはに強引に引っ張られた。どこに行くのかと思いつ
つ身を任せていると、物置代わりの空き部屋に入っていく。そして言う。

「けーとくん……ちょっと、二人っきりで! お話が! あるんだけどっ!」

 句切り句切りで、なのはは言った。言葉に力を込めようとしたのだろう。頑張って「怒ってるん
だぞあぴーる」してるのがよくわかる。

「何ぞ。悪いことしたかね」
「したかね、じゃないよ! わたしが魔王だ何だって言いふらして! 名誉毀損だよっ、これ!」

 あぴーるしたのは本当の感情だったようで、珍しいことに、なのはは顔を赤らめて、ぷんすかぷ
んすか怒っていた。
 具体的に言うと、今にもほっぺたぷくーが出そうな感じ。さすがに、魔王にクラスチェンジする
前に言いふらしすぎたかもしれない。ちょっと反省しつつ、このままではマズいのではと気付く。

「すまんかった。でも名誉毀損より、むしろ侮辱罪か風説の流布じゃね?」

 このままだとぬこまっしぐら、ではなく砲撃まっしぐら。それはさすがに命がヤバいので、なん
とか煙に巻こうとする。経験の差を生かし、難しい単語を使ってみることにした。もちろん用法は
知らん。てきとーに思い出した言葉を言ってるだけなので、読者の人たちは突っ込まないでね。

「え……ふ、ふーせつ……?」

 聞きなれない単語に、なのはは思わずといったふうに首をかしげた。ここだ、押し込め!

「だから甲が乙で丙が丁で! 知る権利と報道の自由が裁判員制度でマツケンサンバなんだよ!」
「え、え? えと、えと」

 言ってることの意味は全くわからないし支離滅裂なのでどうでもいい。
 しかし所々聞こえる単語が難しくて、というか最後以外全部分からなくて、自分の知らないもの
だったことになのはは戸惑った。
 あれ? 言ってること、単語がわかってない?
 まさか、実はわたしって……けーとくんよりアホなの?

「どうしたの」
「ううぅ……ほっといてよぉ……」

 何を感じたか分からないが、どんよりとしょげるなのはだった。どうやら窮地は脱したようなの
でいいけど、明らかにヘコんでいるのでよしよししておいた。

「まぁいいや。ちょっと用事があって帰ったんだけど、果たせなさそうだし。そろそろ帰るね」
「うん……じゃあ…………じ、じゃあ、じゃなくてっ! わたしも用事あるよっ!」

 しょげるついでにスタコラサッサと行きたかったが、そうは問屋がおろさなかった。服を掴まれ
て止められる。そして、ゆっくりと言う。

「あのね、けーとくん。その……わかんなかったらいいんだけど。闇の書って……持ってる?」

 どうやら真剣な話題だったようだ。今までとはちょっと目が違う。
 ので、こちらも真剣に考える。真剣とか今までやったことないので不真面目が度数60くらい混
じるけど、できるだけ真剣に考えることにする。
 闇の書の主は間違いなくはやてである。
 でもはやてには平和に暮らしてほしいので、関係ないということにした方がいい。
 ということは! ということは! ここで俺が主って言ったら丸く収まるかも! 後のことはど
うなるかわかんないけど!

「そう! そう、俺! 俺闇の書持ってるよー。めっちゃ所持者だよー」
「……じとー」

 なのはは「うそつき!」と言いたげな目でこっちを見た。やばい、何か知らないけど信じてくれ
ない。このあふれ出る真剣オーラが感じられないのか。ならもっと演技するしかない!

「ふ、ふははは。よくぞ見破ったな高町なのは。こっ、これからお前は闇の書のエサとなるのだ」
「ねえ。もしかして、誰か……かばってる?」

 やばい。

「くっ……きょ、今日は……このくらいにしておいてやるっ!」
「わたし、何もしてないんだけど……」
「べっ、別に、秘密がバレそうだから逃げるんじゃないからね! 勘違いしないでよね!」
「秘密?」

 これ以上喋ると次々ボロが出そうなので、窓をバタンと開け放ち、キメラのつばさで逃げるのだ
った。





「という感じだったんだけど」
「……シロ、かな」
「シロかもね」

 翌日話してみたところ、フェイトたちの感想はなのはと同じだった。

「僕もそう思うけど……クロノ、どう?」
「……本当に訳が分からなくなってきた……」

 ユーノの問いかけに対して、頭を抱えるクロノだった。



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