「……い、生きて帰ってこれたのか。ゆ……幽霊ではないな、うん」
「おいコラ」

 帰宅したヴィータとシャマルに、まずシグナムが浴びせた第一声であった。今ここに命があるこ
とに心底驚いたという様子であり、聞く側としては突っ込まずにはいられない台詞である。

「でもご両親も、普通の方でしたよ? ケーキの焼き方教わっちゃいましたっ」

 と嬉しそうに言うのはシャマルである。
 戦闘民族戦闘民族と散々聞いていたのだが、良い意味で裏切られたようだ。今は早速、教わった
お菓子を作ってみたくて仕方がない様子。

「私も、未来の魔王って言う割には本当に普通だったな。ゲームとかオセロとか、楽しかったし」
「……本当に魔王になるのか? 補完計画が上手く行っただけなのか?」
「よくわかんねー。砲撃は好きみたいだから、アイツの情報もまるっきり間違いじゃないけど」

 ソースはポケモン対戦である。覚えさせている技を見せてもらったところ、可能な限り全てのポ
ケモンの技に「はかいこうせん」が入っていた。流石である。

「お帰り。どやった? 許してくれた?」

 とか話していると、後ろからひょっこり人影が。車イスに乗ったはやてだった。後ろから人型ザ
ッフィーが押している。

「うん……普通に優しくて、逆に拍子抜けした。将来若本ボイスになる、とか信じらんねー」
「ん、そっかー……そこらへん、もう一回確認せなあかんな」
「この分だと、フェイトちゃんの脱衣癖も少々怪しくなって来たかもしれません」
「伝説の魔法使いヌギ・ストリップフィールドは幻と消えるのか」
「ヌギステル・サギと申したか」
「今シグナムとザフィーラが滅茶苦茶上手いこと言った件」

 しかし好き放題言いながら思いが至るのは、やはりあの姿を消した少年一人。

「今日も捜査、駄目だったんですか」
「周辺の町にも目撃情報が無い。目立つことこの上ないと思うのだが」
「あのゼロ仮面着けてたら一発なんだけどな」
「はぐれメタル引き連れとる時点で目立ちまくりやと思うけど……本当、どこに行ったんやろ」

 ちゃんとお風呂入っとるかなぁ、と心配そうに言うはやて。少年の料理スキルについては熟知し
ているので、食に困る可能性は皆無なのだ。

「ロマリアの王様になって内政(笑)とかでもやってんじゃねーか?」
「いや、あいつは確か機械系がダメだ。産業革命(笑)ができるほど器用ではあるまい」
「それよりむしろ、城下町で定食屋さん、とかの方がありそうです」
「昼時になると炎の飯粒が飛び交うわけか」
「それに、絶対に強盗の被害にはあわんやろな。イオナズン的な意味で」

 しかし料理は美味しそうなので、隠れ家的レストラン(笑)くらいにはなれるかもしれない。

「特技はイオナズンとありますが」
「……はやて。アイツの場合、それ全然嘘になってない」
「あれあれ? 怒らせていいんですか? 使いますよ、イオナズン」
「面接官終了のお知らせですね」

 心配しながらも、案外いつも通りの八神家でした。





「闇の書?」

 と首を傾げるのは、魔王らしくねーと現在進行形で評価されている、高町なのはその人である。
 レイジングハートの修理兼、(レイジングハート自体が要求した)部品のグレードアップのため
アースラに赴いた彼女が聞かされたのは、聞いたこともないロストロギアの名前だった。

「……君が戦った相手だ。第一級の捜索対象……最高に危険な代物だよ」

 レイジングハートから映像データを受け取り、解析するクロノの横顔は険しい。なのはが今まで
に見たことの無い厳しい眼光が、その危険さを無言のまま物語っている。
 なのはは知らぬことであるが、クロノにとって闇の書は父親を、すなわち母から夫を奪ったロス
トロギアだ。公私をわきまえたこの少年であるが、瞳に感情が乗りもするものだ。

「でも、その……人違いっていうか、手違いって言われて。何にもされなかったんだけど」
「……そのあたりが、僕にも本当によく分からない」

 クロノは心底不可解な顔をした。
 なのはの言葉が嘘でないのは信用できるし、レイジングハートのデータから裏もきっちり取れて
いる。
 しかしそれでも、闇の書の過去の行動を考えると信じがたい。高い魔力を保有する相手を、たと
え人違いであっても打ち負かしておきながら、それに次いで蒐集を行わないとは非合理的にも程が
ある。全くもって訳が分からないのだ。

「クロノ」

 と、あーでもないこーでもないと首を捻るクロノの眼前に、ぱっとウィンドウが開く。エイミィ
からの通信だった。

「呼び出しだよ。グレアム提督が、お会いしたいって」
「わかった。すぐ行く」

 と言い、席を立つ。知り合いなのかと問うと首を縦に振り、今回の件かと言えば横に振った。





「使い魔……僕の魔法の先生でもあるんだけど。行方不明らしいんだ。捜索を頼まれた」

 事態はちょっとずつ、おかしな方向へ進みつつあった。



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