姉妹は非常にお腹が減っていた。
 闇の書から出てきたアイツらがやっと蒐集をはじめたのはまだいい。
 だが監視をしている間溜まりに溜まった仕事に忙殺され、監視をお休みしても炭水化物どころか
脂肪もタンパク質もまるっきりだしおさかな食べたいおさかなおさかなおさかなおさかなおさかな
 きゅう。

「はぐはぐはぐはぐはぐ!」
「あむあむあむあむあむ!」
「おー、おぉー。食いっぷりすげぇ。しばらくエサやってなかったし、待ってたのか」

 唯一まともにご飯が食べられた場所へ、最後の希望とばかりにたどり着く。そこへやって来た救
いの手。手にした箱には山盛りの炒飯。
 たかがチャーハンと侮るなかれ、されどチャーハンと心得よ。
 空腹は最高の隠し味。がつがつと食い続ける姉妹はこの時、ただの米がまるで後光でも差してい
るかのように見えたという。前回逃げ出したチャーハンメテオでも、今なら喜んで受け止めそうな
気分である。

「そろそろ煮干しが欲しいよね。3回まわってワンと言え」
「わん!」
「わん!」

 要するにこいつら現在全然頭動いてない。

「ん? ……いいや、ほら煮干し。じゃあ次はニャースっぽく、人語いってみよう。『ぬるぽ』」
「ぬるぽ!」
「ぬるぽ!」
「惜しい、正解は『ガッ』と答えるべし。罰として煮干しはおあずけ」
「やっ、やだっ……やだぁ!」
「おさかな、おさかなたべるっ!」
「……むむ。仕方なし。くれてや……ふぁぁ。それにしてもねむい」

 そして同じく、徹夜直後で頭が回ってない我らが主人公。
 昨日ははやてとラブラブラブラドール、ではなくポケモン通信やりすぎた。何か違和感あるけど
まーいいや眠い、という感じ。つまり半覚醒。

「あー……あ、はぐりん用にリンゴ買ったんだった。食べる?」
「た、たべるっ、たべますっ」
「よし。切ってるからこれ食ってれ。使って余った鮭の切り身」
「はむはむはむはむはむ!」
「あぐあぐあぐあぐあぐ!」

 食糧難でもう頭が回らないぬこ姉妹。久々の餌付けはやたら騒がしいまま、手持ちの食料が尽き
るまで続いたのでした。時間にして30分ほど。





 で、メインディッシュがあらかた終了した後。
 やっと念願の食事にありつけた感じで、食い終わったぬこたちがすんごい幸せそうな顔でおすわ
りしながらこっち見てる。

「何かこいつら、食ってるとき妙な言葉をいろいろ口走ったような……」

 と疑問の視線でみるとものっそい挙動不審になるんだけど、餌付け中の細かい記憶があんま残っ
てないので何とも言えない。芸をさせたことは覚えてるんだが。

「まーいいやね。すまんかった。随分時間空いてしまいましてどうも」

 そう言って、デザートのヨーグルトを振る舞ってあげた。口のまわり真っ白にしてぱくぱく食べ
てるし。かわいいなあ。
 と思っていたのだが、あんまりこうしてはいられないことに気付いた。明後日ははぐりんたちの
故郷でピクニックの予定である。
 はやてとシャマル先生が弁当を考えて(俺が考えると9割がチャーハンになり非常に不評だった)
いるので、こっちは必要な備品を買いそろえにゃならん。前回より大きめのビニールシートとか。

「あー。次回はあれだ。ちょっと出てるから、三日後くらいまで待っててほしい」
「ええっ!?」
「そっ、そんなぁ……」
「すまん。でもその代わり、料理は腕によりをかけて……ん? 何だ今の声」
「にゃっ、にゃあ!」
「に、にゃー、にゃー!」

 何か誤魔化されてる感じがするけれど、何なんだろう。まぁいいか。じゃあまた。と別れる。
 姉妹はぽつねんと残された。





 どうしよう。
 姉妹は考える。
 先ほどまで腹ペコとご飯の興奮で頭が回っていなかったが、今になってようやくまともな思考が
できるようになってきた。危うく正体ばれそうになるところだったが何とかセーフである。
 昨日空腹を堪え、八神家の庭に忍び込んで聞いた話によると、蒐集はしばらくお休みするらしい。
問題は解決した、とひとりが言っていた。
 闇の書を完成させてもらいたい自分たちとしては、非常に困った話である。
 前回は何やら急いで蒐集していたし、どういう訳か人間からの蒐集がなかった。なのでエイミィ
経由で情報をリークし、管理局とはち合わせから蒐集の加速をもくろんだのだが……次回のピクニ
ックとやらで同じことをしても、蒐集を急ぐ様になるとは到底考えにくい。もう面倒だし蒐集は先
延ばし、という雰囲気だった。
 あの騎士たちに平穏を許す気はないし、目的のために手段を選ぶ気もない。
 必要なら八神はやてを人質にとり、闇の書の蒐集を強要するくらいのことはしてやってもいい。
 しかしそうなると、八神家の緊急事態だ。おいしいごはんにありつける唯一のチャンス、つまり
あの少年が会いに来てくれる機会が消えてしまう予感がする。と同時に、自分たちの命も風前の灯
になることは間違いない。餓死フラグ的な意味で。
 しかも次回のごはんは三日後と来たものだ。要するにピクニック時に事件をおこしてしまうと、
それから先エサをもらえる可能性は激減するに違いない。
 ……それだけは困る。
 とりあえず何をするにももう一度、もう一度だけ味わってからにしたい。
 どうするかはそのあと考えよう。行動をおこすにしても起こさないにしても、少なくとももう一
度エサをもらってからにしよう。
 姉妹はそう思ったのである。





「あれ。いつものぬこたちだ」
「……にゃー」
「にゃぁ」
「何で? ……ま、いいか。おやつ多めにあるから、ちょっとあげよう」

 ということでそれから二日後、花見の場所取りよろしくいい場所を探す、ピクニック先遣隊の
主人公とはぐりんたち。その傍らには姉妹の姿もあったのである。



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