「ふっふっふ……顔は嫌がっていても、期待しているんだろう? 更なる高みを」
「く……くやしいっ……でもカンしちゃう……!」
「ほうら……くくっ、見な。一枚めくった先はもう凄いことになってるぜ」
「ああっ……アカン、こ、このままやと……と……トんでまう……!」
「『カンドラ』はこっちのもんだ。さぁ、トんじまいな!」
「んんんあぁっ! とっ、トばされる――あ、あああああっ!!」

 モニターの向こう、相手の点数が反転した。
 俗に言うハコテンである。
 媒体はパソコン、種目は麻雀。無料で遊べるゲームサイトで、交代しながら牌を打つ。
 もちろんはやての身に何かあったわけでも、悔しくても感じちゃったわけでもない。フヒヒ。

「対戦相手の実況お疲れさま。というか進んでるね、最近の小学生」
「女の子なめたらあかんで。でもこのくらいのネタ、皆知っとると思うけどなー」

 異世界とはいえ、日本の未来はこんなんで大丈夫なのだろうか。



「という訳で、今日ははやてに何か芸を仕込もうと思います」
「どういう訳でそうなるのか、説明を要求する」
「や、気分的に。それに何か、イメージ犬っぽいし。ほら、お手」
「わん。わんわん」

 冗談で言ってみたら手に手を乗せてきて、やたら純真な瞳で見つめられた。いかん。かぁいい。

「一瞬見とれた。不覚なり」
「ふっふーん、どうだ参ったかー」
「君の瞳に惨敗」
「……うわ、何かイヤやなそれ」

 一文字変えるだけで、名台詞が台無しである。

「今回は車椅子を使います」
「でっていすやな」
「そのネタ引っ張るね」
「たまに乗り捨てしたいし。なーなー、また背中借りてええ?」
「いいけど。それはそれとして」

 閑話休題もいいところである。

「貴様が下だッ! はやてッ!」
「……あー、えと……そこだ『シルバーチャリオッツ』!」
「一発で分かるとか。もう愛してる。結婚してください」
「まあけーとったらいけないひと!」

 きゃっきゃ言いながら追いかけ回る二人だった。一人は車椅子だけど。
 ちなみに忘れられているかもしれないが、主人公の名前は玉坂恵人。

「ポルポル君、どうやって動いたんだっけ。車椅子のままジャンプしてたよね?」
「んー……何か、車体にバネみたいのを仕込んどいたとか。めっちゃ固いやつを」
「やってみたいね」
「やめとき。私が投げ出されて死んでまう」

 もっともなので諦める。

「芸ってこれのこと?」
「やー……正直、ここまでネタが豊富とは思わなかった。なめてました」
「私の瞳に惨敗」
「君の瞳に連敗」
「敗者に罰ゲーム! でっていす乗り換えや! ほら早く」
「でっていう」

 ひょーんとSEを真似しながら、はやてが背中に乗ってきた。でっていう。

「わ、背中あったかい」
「さっきの買い物、走ってったから」

 這いつくばりながら言うと、肩の辺りに何かが押し当てられた。

「……ん……」

 はやての頭だった。

「人間って不器用だね。寄り添わないと安らげない」
「ん……なに、哲学?」
「ごめん調子乗ってみた。あったかいです。落ち着く」
「それ見ー」

 はやては面白そうに笑った。
 その間に、両手足を伸ばしてうつ伏せになる。
 その上にはやてがうつ伏せになるという、何とも言い難いこの状況。

「お腹減ったね」
「ん、減ったね」
「動きたくないね」
「あったかいしなー……」

 同じ親無しのはやても、気持ちは一緒だったのかもしれない。

「人間ってあったかい。これ、豆知識な」
「またひとつ世界に新たなトリビアが生まれた」
「満開だね」
「満開やね」

 夕飯は少し遅くなりました。



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