宿題に出した絵が返ってきた。ので放課後、モデルになってもらったなのはさんに渡しに行く。
 ということで今現在、単独で魔王の根城に乗り込んでいる次第である。桃子さんに用件を告げる
と、自室にいたのを呼び出してくれた。

「仕上がりは見せてなかったけど、こんな感じになりました」
「わぁ……ありがと、大切にするね!」

 目をキラキラさせて、なのはは嬉しそうに言った。これが将来「ぶるあああああ!!」になると
いうのだから信じられない話だ。人間変わりすぎだろう。

「せっかくだし、上がってって!」
「ん? はやて居ないけど」
「けーと君に言って……ど、どうしたの? びっくりした顔して」
「や、あまりに呼ばれないので、自分の名前忘れてた」
「えと……オリシュ、だっけ?」
「やっぱそっちの方がしっくり来る」

 将来黒い仮面にマント羽織って合衆国作ろうかなと画策しつつ、勝手知ったるなのは部屋。

「なのはさんハウスだッ!」
「……私がうようよいるところ想像しちゃった! かなり怖いよっ!」
「部屋一面の敵なのは……怖すぎる。集団でなのなの言いながら、じわりじわりと殺されそうだ」
「怖いってば!」

 突っ込んでくれる人が居るといいなぁと思いながら、毎度のようにアホなこと話しつつ、五目並
べしたり漫画読んだりでのんべんだらりと過ごす。
 小学生の間はあんまし男女関係ないなーと思った。自分もそうだし、目の前のなのはさんも特に
意識してないっぽい。
 ……その割には確か原作、二十歳近くなっても浮いた話一つも無かったような。自分も人のこと
言えないけど何だかなぁ。

「はやてちゃん、元気にしてる?」
「ん? 元気。元気すぎて吐血する」
「元気なのか元気じゃないのか分からないよ……」
「冗談抜きに、元気。こないだは買い物で、たけのこの里安売りしててはしゃいでた」
「あ、たけのこ派なんだ。私とおんなじだね」
「違いの分かる人はきのこを選ぶ」

 とか話がシフトしつつも、はやての話をしてやると嬉しそうだった。会って間もないけど、すっ
かり友達なんだなと実感する。

「でも元気とはいえ、病気や怪我はやはり毎日大変です。なのはさんも気をつけてほしいのです」

 いつか撃墜イベントもあるらしいし、ちょろっと釘を刺しておこう。

「うん。最近、風邪はやってるしね」
「や、病気より主に怪我。いつか某メカニックに、リハビリ映像引っ張り出されたくないなら!」
「……何だか、すごい具体的だね」

 怪しまれたので自重する。

「なら別の例。パワプロサクセスで、ひじに爆弾抱えたまま変化球練習したりとか」
「人のトラウマ刺激しないでよぅ……」

 十分わかってくれたようだった。





 少し遊んで帰りにシュークリーム買って、魔王城から帰還。八神家の皆にも絵をプレゼントし、

「眠いのでもう寝る。ぐおー」
「起きて宿題しないと、シャマルルーレットの刑に処す」

 シャマルルーレットとは通常のおにぎりの中に、「好きなように作って」と言って作らせたシャ
マル製おにぎりを紛れ込ませる、いわゆるロシアンルーレットのこと。
 当たりを引くとゲロ以下の味のおにぎり(匂いは普通なので判別はつかない。タチが悪すぎる)
を食べねばならない、世にも恐ろしい刑罰である。
 最近のシャマル先生は料理レベル上がったけど、訳の分からん味を生み出す腕が鈍ってないから
すっごい困る。

「レシピ通りに作ると普通に美味いんやけど、調理自由にすると味までフリーダムになるしなー」
「塩チョコの何に感銘を受けたかは分からんが、前はおにぎりの具にチョコというのもあった」
「それはちょっと」
「発想のスケールで敗けた」

 シグナムに黒歴史を暴露されたシャマル先生がそろそろ泣きそうなので、弄るのは止めて大人し
く宿題しよう。

「なのはちゃん、どうやった?」
「お大事にって。今日は怪我の恐ろしさを教習しといたけど、結構わかってくれたみたい」
「おー、意外と順調なんだな。やるじゃんか」
「あと、実はたけのこ派ということが発覚した」
「やっぱり、きのこ派はマイノリティなんでしょうか」
「らしい。クラスでもたけのこ党が席巻してた」

 どうでもいいから、宿題をする。
 さっさか終わらせて夕飯タイム。
 夕飯食べたらまったりタイム。

「気になった。シャマル先生ばかりボコボコに叩かれてるけど、他の皆は料理するの?」
「作ったことはあるが……盛り付けがどうも下手でな」
「あたしも。レシピ通りに作るから、味は普通だけど」
「なら明日は土曜日やし、ケーキ焼こ。チョコとか残っとったし、美味しいもの食べよ!」

 嬉しそうに言うので、台所へ連れていってやった。
 なんか楽しくなってきたので、皆でニコニコしながら材料チェックしました。動画じゃないよ。

「とりあえず間違えないように、有塩バターは封印しよう」
「そうだな。それがいい。どこかの誰かがまた間違えるかも知れないしな」
「……」

 前科持ちのシャマル先生が拗ねたので、皆でお菓子を持ち寄って慰めた。



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