「わたしの名前、なんではやてなんやろ」

 朝。てくてくと通学路を歩いていると、はやてがそんなことをこぼした。

「親御さんが少年サンデーの愛読者だったんじゃね」
「あれはカタカナや」

 一番あるかと思ったが違うらしい。

「名付けやなくて、どうして漢字にしなかったんかってことなんやけど」
「ひらがなの方が柔らかいからじゃね。俺もこっちの方が好きだし」
「口説かれた」
「ちがいます」
「人生、一度でいいから口説かれたい。耳元で甘い言葉とかささやかれたい」
「和三盆和三盆和三盆和三盆」
「早口上手いんやね」
「照れるね」

 この人と話すと脱線しても気づかないことが多い。あんま困らないけど。

「昨日ミッド語で書類書いてたんだって?」
「簡単なのやけどな。クロノくんのお手伝いで、体験してみないかって」
「それで漢字とひらがなの違いを認識した、と」
「そんなとこ。まあ、もう理由を知る人には会えんしなあ」
「家探ししたら何か出てくると思うぞ」
「……大晦日、大掃除のついでに探してみる」

 ぐっどあいであ、とばかりにうなずくはやて。

「手伝いましょうか」
「お。おおきになあ、お願いするかも」
「家中ひっくり返すよ」
「戻せ」

 のんべんだらりと歩きます。
 学校前の交差点にさしかかりました。

「交差点やね」
「そうだね。交差点だね」
「ここの信号長いんよな」
「どっかの神父が加速してくれればいいのにね」
「その場合、青の時間も短くなる件について一言」
「はやてって基本的に頭いいよね」
「もっと誉めれ」
「俺実は頭フェチなんだ」
「豆腐の角に頭ぶつけて転生すればええのに」

 てくてくと渡る。渡ったら渡ったで、はぁとやる気なさげなため息が出た。

「お互い今日テンション低いな」
「……朝ごはん、一口も食べとらんからな」
「シャマル先生が炊飯ジャーのスイッチ押し忘れたんだよね。あの絶望した泣きそうな顔がまた」
「ヴィータが写真撮っとったからあとで見よ」
「残念だが、写真でお腹は膨れないぜ」
「思い出させんな」
「すまないね」

 とか言いながら、帰宅後のシャマル先生の処遇を考える。
 しかしまあ、本人すっごい泣きそうな顔してたし写真公開だけで許してやるか。となったその直
後、図ったかのようなタイミングで二人ともお腹がきゅるきゅる鳴った。

「……このまま給食室に押し入ろうぜ」
「……やりたいのは山々やけど、いろんな人に阻まれるわ」
「全員煮込んでトロトロのシチューにすれば……!」
「次元犯罪者一直線やな」
「次元犯罪者じゃなく、ただの犯罪です」
「それもそうか。臭い飯食わされることになるな」
「臭い飯でいいから食べたいですね」
「今ならシュールストレミング食べれられるわ」
「俺高町家に避難してケーキ食ってるから」
「そこは手伝えよ」
「手伝わねえよ」

 二人してお腹を空かせてました。



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