夕飯のメニューをあれこれ考えていたところ、ちっこいリインが目の前をふよふよと飛んでいく
のを見てひらめく。

「リイン、リインちょっと。新しいお風呂を考えたんですが」
「えっ……こ、これは困りましたっ。いきなり一緒にお風呂の特殊イベントですか! はわわ!」
「そうそう。だからおいで。こっちにいいお湯があるから」
「はっ! そ、それは土鍋……! い、嫌な予感しかしないのですが、どうするべきでしょうか!」
「関係ない 行け」
「けーとさんが荒木デッサンに……リイン2号、突貫します!」

 着衣のまま飛び込んだ。蓋をする。

「やややややや! やっぱりこうなりましたか! ……だ、出してくださいーっ」

 中からばしゃばしゃ音がする。常々思うのだが、この子は一人で表に出したら駄目だな。

「ここにごま豆乳なべの素を投入するとえろい図になるよね」
「けーとさんがオープンにいやらしいです! あとあと、豆乳を投入ってナチュラルにうまいこと言ってます!」
「じゃあうまいことついでに、美味い出汁を出してくださいな」
「し、仕方ありません。こうなったらリインの穴という穴から、世界120ヵ国のスープがそれはもう大量に!」

 味がひどいことになるのでやめよう。蓋を開ける。

「ということで、夕飯は湯どうふにしようと思います」
「マジですか!」
「マジだ」
「な、なんという壮大な前振り……しかも鍋ではなく、あえて湯どうふに持っていくとは!」

 なにやら言うのはともかくふきんと着替えを渡してやり、ざくざくと野菜を切る。人数が多いの
で具材もけっこう多めだ。鍋もひとつでは足りずふたつある。

「ねぇ、ゆどうふって?」

 ロッテが横からのぞきこんできた。

「む、熱いから猫舌のふたりには厳しいか……ああ、普段コーヒー飲んでるし大丈夫か」

 「熱い」「飲む」というキーワードから、ロッテじゃない方が推理をはじめた。

「どうした? えと、なんだっけ。リア……マリアンヌ?」

 アリアだと主張した上で引っかかれた。
 ということでぬこ姉妹も、ここにはいないがグレアムじいちゃんも来てます。復学の手続きには
保護者がいた方がいいので、時間を見つけて来てくれたのだ。じいちゃんとはやてと一応シャマル
先生が、ちょうど今学校に行ってるところ。
 猫好きということですずかでも呼んでやろうかと思ったが、ちょっと滞在していくらしいから今
日はいいや。はやては手続き書類も書かなきゃならんし。

「で、ぬこ姉妹はついでに遊びに来た、と」
「お父さまの付き添いよ。こいつらが何するか分かったものじゃないし」

 ヴィータとリインが聞きつけてなにやら構えを取った。事件解決後も相変わらず騎士たちは嫌い
みたいで、こんな感じに刺々しい態度になることがある。

「じいちゃんとはやてにシャマル先生がついいったとき、何も言わなかった件について一言」
「そっ、それは……さ、さすがに、街中では何もしないと思ったからで……!」

 アリアがなにやら言い、ヴィータたちも構えを解いた。まぁこういうところを見るに、少しずつ
歩みよってはきているのかもしれなかった。

「そっ、そんなことより! お、お前も教会行ってきたんでしょう? 何かやらかさなかったんでしょうね」
「安心しろ。いつも通りだったから」

 ヴィータはとりあえず間違ったことは言ってないが、既にぬこ姉妹は不安そう。

「しかしあの時とは違い、呪いのアイテムを装備した猫の解除とかはしてなかった。がっかりだ」
「あ、あれはお前が着けさせたんでしょう!?」
「そうだったっけ。いやぁしかし、いしのかつらだったか。あれ装備したアリアは面白かっt」

 羞恥で顔真っ赤+涙目のアリアに口をふさがれた。

「がり」
「にゃあああああっ!?」

 口元にある指を噛んだら、猫みたいに飛び上がって猫みたいな声出して猫みてぇ。

「お前も楽しんでたんじゃねーか。もっと話聞かせろよ」
「わかった。じゃあぬこたちがマホトーンかけられたときの、あの涙目加減とか語ってみようか」
「や、やめなさいよ、やめなさいよーっ!」

 ざくざく野菜を切る背後がとてもうるさかった。

「ちなみにクロノには話してあるから」
「えっ……う、嘘っ」
「マホトーン習得を真剣に考えてた。猫たちのためにって」

 ぬこたちが石化した。



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