聖王教会に行く前に、とりあえず対となる魔王様にもご挨拶せねばなるまい、と思い立つ。

「ということで、マオさんこんにちは」
「マオさんって誰! わたしの名前が跡形もないよ!?」
「魔王っぽいからに決まってますが」
「も、もう、それやめてって言ってるのに……わたし、普通のおんなのこだってば! ほらほら!」

 なのははスカートのはしっこをつまんで立ち上がり、くるりとまわってアピールした。確かに見
た目はちっちゃい女子そのものだが、仮にも魔法少女がノーマルな女の子を主張するのはどうかと
思われる。

「仕方ない。なのはさん改め、なのハッサンというあだ名をやろう。ついでに髪もモヒカンに」
「せいけんづき!」

 なのはは俺の発言を遮り、手のひらをぺちぺち叩いてきた。どうやらその名の通りナノサイズの
ハッサン程度にしか力がないらしく、俺にダメージを与えられない。

「うー、少しもこたえてない……」
「腕力差考えるとそんなもんだ。しかしそれにしても、なのハッサンも不服と申すか」
「不服すぎるよっ! こ、こうなったら、けーとくんにも変なあだ名つけちゃうんだからっ」
「それは楽しみ。このチラシの裏にでも書いてくれ」
「ど、どうしてすぐチラシを取り出せるんだろう……どこにしまってたの?」
「腹の中。げふー」
「雑食にもほどがあるよ! そんな胃液まみれの紙なんて使いたくないし!」
「賢明だな。俺の胃液にかかれば、なのはなぞ三秒で溶かし尽くしてしまう!」
「けーとくん、そんなの出しててお腹大丈夫なの?」
「胃の中であれば大丈夫だが、頭の中はいつも通り大丈夫じゃないです」
「じっ、自分で言っちゃったよこの人!」

 しかし否定はしない辺り、なのはが俺を頭のおかしい人認定していることが示されている予感。
自覚してるからいいけど。

「喋りすぎて疲れた」
「こっちの台詞だよ……それで、けーとくん、ご用はなあに? 何かあったの?」
「用を足しに」

 ドン引きされたのでおとなしく撤回し、説明。

「教会? 聞いたことないけど……あっ。クロノくんが、はやてちゃんに話してた気がする」
「そこに行くことになって、知っていれば心構えとか聞きたかったけど。知らない?」
「うん。ごめんね、あんまり知らないや」
「そうなのですか」
「そうなのですよ」

 用事が終了し、一気に暇になる。

「なのはのせいで暇になったので、俺を楽しませることを命ずる。ははは、苦しゅうない」
「ぜんっぜん私のせいじゃないし……あれ、けーとくん暇なの? お夕飯の支度は?」
「今日はシャマル先生がやる。ということで、何か踊れ。キタキタ踊りとか踊れ」
「知らないよそんなの……き、きたきた、きたきたー!」
「タコ踊りしてるアホがいる。ついに頭がおかしくなったか、アホ毛とか立たないかにゃ?」
「かにゃ、じゃないよお! けーとくんが言ったんでしょう!?」
「そんなこと言ったかにゃ?」
「言ったよ!」
「言ったかにゃ?」
「言ったかにゃあ!」

 言ったみたいだにゃあ。

「もー、そうやってすぐとぼけるしぃ……」
「おとぼけ星人だから諦めろ。あと思い出したが、聞きたいことあった。なのはの足のサイズ」
「え……もしかして、何か作ってくれるの? ぜ、ぜんぜん、まったく嬉しくないけどっ!」

 なのははふいっと顔を背けたが、ちらちらとこちらを窺ってきているのでおもしれぇ。

「シャマル先生から編み物を習ったので、なのはの足より小さい靴下をやろう。ははは、喜べ」
「ありがとうだけどありがたくないよう!」
「ありがとうだって。照れるぜ」
「つ、都合のいい部分だけ聞かないの! ありがたくないありがたくないありがたくない!」

 都合の悪い部分を連呼されたため、どうにか頭に入れることに成功する。

「きょ、教会でもこんなことしないか、心配だよ……」
「心配なら聖王様の本拠地だし、マオさんも着いてきたらどうでしょう」

 再び抗議するなのはだった。一周まわって最初に戻る。



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