見事に八神家のメンバーに加わったちっちゃなリインであるが、せっかくなのでリイン2号とい
うだけではなく、この子だけの名前を考えてはいかがだろうかという話が立ち上がる。

「ということなら第一候補『ステファ二ー』、第二候補『キャサリン』が頭にあるのですが」
「アメリカのホームドラマに出てきそうやな」
「そうそう。ステファ二ーよくね? 何か、響きが親しみやすいっていうか」
「呼ぶ度に笑い声が聞こえてきそうなんだけど。HAHAHAHAって」

 とりあえず却下された。せっかく考えてたのに残念である。

「というか、ご本人様はいいのだろうか。リインも」
「私は……この子が、いいのなら」
「んー、あんまり気にしません。でもでも、名前が二つあるとちょっと素敵かもしれません!」

 ちっちゃなリインはわくわくした感じで、期待の眼差しを向けて言う。となると、格好いい名前
をつけてやらねばならんという気分になってきた。呼ばれると嬉しいような、そういうしっかりし
たものがいいよなぁ。

「リインフォース・Y・ステファ二ー……!」
「全米のミドルネーム持ちに謝れ」
「安直過ぎるわ」

 はっと名案が浮かんだのだが、はやてたちに一蹴されて水泡と帰してしまいがっかりする。

「あたしは別にそれでもいーけど、それならお前も『トーマス』に改名な」
「面白そうだ。トムと呼んでやろう」

 後悔するほど嬉しくない。

「み、ミドルネームですか……ちょっと気に入りました! アルファベット、何がいいでしょう?」
「それを実行すると俺の名前がしゃべる機関車みたいになるので、ズバリやめた方がいいでしょう」
「えー……でもわたし、ジェリーよりトムの方が好きですし」
「ゼリーよりハムが何だって?」
「あっ、あっ。わたし、ゼリーの方が好きです。ということで取り消し、無効を宣言します!」

 リイン2は両手で大きくばってんを作った。かくして俺の精緻極まる話術により、トーマス襲名
は防がれた次第。

「審議中」
「ちょ」

 しかしそれを聞くと皆は、俺たちを除いてテーブルのまわりに輪になって、今の宣言の正否を検
討しはじめやがった。

「否決」
「けーとさんけーとさんっ、こんなのもらっちゃいました!」

 ややあってリイン2が呼ばれ、シグナム議長により宣告がなされた。「不当判決」と書かれた紙
を渡されて、屈託のない笑顔で戻ってくる。

「顔と手元が不一致すぎるわ」
「それはそうだろう。否決したのはお前の名前だけだからな」

 どうやらリイン2号の名前は据え置きで、俺の名前だけトムになってしまったようだ。

"Hi, Tom! What's wrong?"
"Tom, would you like any coffee?"
「やめて」

 横文字は嫌いじゃないのに、死にたくなるほど嬉しくないのはなんでだろう。

「そう遠慮するな。呼びやすい、いい名前じゃないか」
「じゃあザフィーラも改名してよ……一人だけ略称持ちとか嫌だわ」
「常日頃から私をザッフィーと呼ぶその口でそれを言うか」

 そういえばそうだった。

「やはり、責任の所在はリイン2だな。こうなったら道連れに、この子もステファ二ーに」
「おねえちゃーん、助けてください!」

 リインはそっと妹を抱き締め、戸惑いがちにかばう仕草をした。おねえちゃんどいて。そいつ許
せない。

「やめろトム」
「嫌がっとるやろトム」
「トムちょっとお茶淹れてきてよ」
「うああああああああ」

 その日は一日トムトム呼ばれ続ける俺だった。一日で済んで本当によかった。





「ステファ二ー。ステファ二ー!?」

 それからというものの、リイン2はステファ二ーと呼んでも答えてくれるようになった。

「はい! 何ですか、トムさんっ」
「トムやめて」
「トムじゃないです。トムさんです!」

 しかしその代償に、彼女は俺をたまにトムさんと呼ぶ。



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