管理局での新たな仕事を明後日に控え、八神家の一同に緊張走る――!

「みかん足りなくね?」
「大丈夫やろ。追加のぶんも買ーてあるし」
「それにしたって食べすぎだろ。日に五個までにしとけよ」

 ということもなく、とりあえず朝から昼にかけてはいつも通り。送られてきた資料を確認する以
外は、特に変わったこともないです。

「仕方ない。仕方ないが、アイス食べてるヴィータが言うのはどうかと」
「まだ一個目なんだからいーだろ」
「こんなに寒いのに、こたつに入ると食べたくなるんよなー」
「一口くれ」
「やなこった」
「みかんと交換で」
「アイス食べた後だと酸っぱい気がすんだけど」

 とか話していると、対面に座るリインがこちらを見ているのに気づいた。同じくみかんを食べた
り本を読んだりでくつろいでいたのである。読んでいたものから顔を上げて、そうなの? と目で
訊いてくるような雰囲気。

「やったことないから分かんないけど。甘いものは甘くない順に食べるのが鉄則」

 なるほどという感じに、小さくうなずく。

「それを考えると、スイカに塩というのも頷ける気がしなくもないでござる」
「両極端やけどなー……今の聞いて、海に行きたくなってきたんやけど」
「潮干狩りやってみてー」
「砂浜で探すのは邪道。海に入って足で探すのが本物」
「オリーシュが漁師になるようです」

 夏が来てはやての足が治ってたら、貝取り勝負をしに行こう。などと何気に楽しみな約束をして
いるうちに、隣のヴィータからカップアイスを一口かすめ取る。

「むぐむぐ一口だしむぐむぐいいでしょむぐ」
「こっ、この……! ひ、一口の割にごっそり減ってるじゃねーか!」
「了解した。じゃあバニラアイスの代わりに、このみかんの白い筋をあげよう」

 差し出した手のひらをがぶがぶ噛まれた。アイスを付けて食べる用のビスケットを取りに行き、
ご機嫌を取ることにする。

「わたしにも」

 戻ってきたところではやてが追加を注文してきた。しぶしぶ、二袋目を取りに戻る。

「私の分はどうした」

 戻ってきたところでザフィーラが追加を注文してきた。超しぶしぶ、三袋目を取りに戻る。

「私のは……?」

 戻ってきたところでリインが真似して(ry

「ばりばりばり」
「あーっ! な、何してんだこの馬鹿!」
「ぼりぼりぼり」
「くっ、食うなアホ! 私のビスケットぉ!」
「わっ、私の、私の……!」

 全部食ってやった。ザフィーラ以外にすごい責められた。





 夕飯が終わって風呂からも上がって、もう少ししたらお休みしようかということになる。

「またザフィーラの取り合いがはじまるお……」
「ジャンケンでいいだろ……常識的に考えて……」

 夏は暑苦しそうなことこの上ないザフィーラであるが、ご存じのとおり毛皮がもこもこしている
ので冬になると大人気である。皆で一緒に寝る時はともかく、部屋にわかれて寝る時は誰と一緒に
なるかで結構もめる。俺とヴィータやはやてとの間で。

「負けたー。今日はヴィータやね」
「思うんだが、ザフィーラはさんで両側から寝ればどうか。はやてとヴィータなら」
「ベッドのサイズがなぁ。布団のときはそれでえーけど」
「なるほど。まぁ今日もはぐりん湯たんぽでいいか」

 ちなみにであるが敗北した人たちにも、お湯を飲んだはぐりんたちに足をあっためてもらう「は
ぐりん湯たんぽ」があるのでなかなか嬉しい。
 最初はこれでいいのかとちょっと戸惑ったけど、暑かろうが寒かろうが涼しい顔をして寝るので
お願いしているのだ。今では冬の八神家に欠かせない名物である。今後も活躍してくれるだろう。

「あぶれた」
「あぶれた……」

 しかし当たり前だが、数量には限りがある。俺とリインが抽選(あみだくじ)に外れてしまい、
二人そろってしょぼーんな感じになる。

「仕方ない。リインのメタル化を応用して、はぐりんの代わりをやってもらおう」
「……私が暑くて眠れなくなる」

 リインが首を横に振ったのを最後に、希望が断たれた。今日は特に冷えるので、寝る前に靴下を
二重くらいにして履いておこうと心に決める。

「あーあーどっかにもう一匹落ちてねーかなザフィーラ!」
「想像しがたい状況だな。残念だが私はここにいるぞ」
「いるのかよ。ならシグナム、ザフィーラをちょっと右半身と左半身分割してほしいんだけど」
「まずお前で試してからになるが、それでいいか」

 あきらめるしかないようだった。そのうちみんなお休みを言ってから寝に行ってしまい、二人残
される。その間考えたものの、さしたる名案も出てこない。

「仕方ない。あったかいココアでも飲んで寝ましょうか」
「ココア?」
「チョコ味のあったかドリンク。作っとくから、マグカップ出しといて」

 どうやら飲んだことがないらしい。思えば最近コーヒーばっかりで、ココアとか久しぶりな気が
した。かなり昔にぶちまけて挨拶したような記憶がなくもないが、今日はもう眠くなってきたので
そういう気も起きてこない。

「おいしい。あったかい……ありがとう」
「ん」

 気に入ってくれたらしい。とりあえず安心して、体が芯からぽかぽかしていくのに任せる。こく
こくと飲んでいく。

「あ。お砂糖は控えめにしといたからご安心を」

 ふと気にしていたのを思い出したので言ってみた。

「なっ、何を、言って……」

 視線が微妙に揺れてるあたり、動揺が隠し切れていないリインだった。

「まったく太る太るって。そんなに骨と皮になりたいか」
「そ、そこまでは、言っていない」
「そう聞こえる! よく考えろ、1kgの俺と40kgの俺だったら確実に後者選ぶだろう!」
「……それは当たり前」

 などと、ぐだぐだと太る太らないの言い争いを行った。

「余計あったかくなってきた」
「私も……」

 怪我の功名なのだろうが、それにしてもちょっとあったまりすぎた。

「このままだと寝苦しい……あれ。布団敷いたっけ」
「持ってきておいた。本棚の前に」
「じゃあ何か読もうか。さっきので目が覚めちった」
「うん」

 寝るまで漫画とか本を読み始める俺たちだった。





「……冷えてきた」
「またココアの素入りのマグカップにお湯を入れる仕事が始まるお……」

 ループしてしまう俺たちだった。



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