美味しいお正月料理の数々をようやく食べつくし、幸せな気分で過ごしていた八神家の一同。
 今日も今日とてまったりと過ごしていると、なんと珍しいことに、クロノからメールが届いた。

「というか、クロノも携帯買ってたとは」
「どうしてアドレス……ああ、フェイトちゃん経由やな」
「ちょうどこっちの物件探してるとこらしい。フェイトの編入後の生活のために」
「どうした?」
「何だ何だ?」

 暇な時間をそれぞれ持て余していたので、外から舞い込んできた情報にみな興味津々らしくわら
わらと集まってきた。おかげで携帯を持つ俺の周囲が窮屈で仕方ない。

「頭の上で顎かっくんかっくんするのやめれ」
「うるさい。早く読めよ」

 頭頂部におけるヴィータの行動にやる方のない不満を覚える俺だったが、しかし止める気配がな
い。ここで押し問答をしていても仕方がないので、しぶしぶメールの内容を説明する。

「お仕事ですか?」
「そのよう。はぐりんたちとリインに、シグナムとシャマル先生。今週の土曜日」
「ふーん。で、お前はどうすんだ? メタル軍団の指揮に行くのか?」
「リインの言うことも聞いてくれるから、どっちでもいいんだけど。暇なら見学に行ってみる」

 同類意識があるためなのか、リインの指示にも割と正確に従うはぐりんたちである。可愛がって
あげてくれてるみたいなので、割とよく懐いているのかも。

「いやお前は常に暇だろう」
「Exactly.(毎日が日曜日でございます)」

 などというザフィーラとの会話を最後に、やっと解散。せまっ苦しい空間から解放され、元通り
ソファでゆっくりとくつろぎつつ返事のメールを打ちはじめる。今度遊びに行っていいか、とかそ
ういったことも付け加えて。

「明日の朝食、今日のハンバーグ使ったハンバーガーで了承してくれるかな?」
「いいともー!」

 こたつで本を読んでいるはやてから許可が出たので、明日の朝ごはんが決定した。当番は俺だ。
シャキシャキのレタスや玉ねぎとトマトソースを使って、朝から満足できる一品を作ろうと思う。

「あ。そういやシグナム、照り焼きチキンもできるけど。そっち挟む?」

 と考えたところで、思い出して聞いてみた。シグナムはどちらかと言うと和食の方が好みらしい
のだ。そちらの方が取っつきやすいような気がする。

「む……あ、ああ。そうだな。お前が平気ならお願いしよう」

 しかしどうも、返事の歯切れがよくない。何かあったのだろうか。

「もしや28日周期か……」
「何の話をしている?」

 すっごい小声だったのに、どういう訳か聞かれていたらしい。あわてて誤魔化して火消しする。

「ともあれ、どうしたの。照り焼きチキンに何かトラウマでもお有りか」
「い、いや。そういう訳では……ないのだが」
「ないのだが?」
「……ないのだが」

 ないのだが何だ。

「そ……その……な、何だ。正月の料理も、もう終わりかと思っただけだ。長かったからな」
「ああ、確かに。思えば雑煮が続いたよね」

 毎朝毎朝主食が雑煮のなかの餅だったので、いかに美味しいとはいえそろそろ飽きてきたところ
である。具体的には濃い味が欲しくなってきた感じ。

「濃い味の恋しい季節になってまいりました」
「それで上手いこと言ったつもりか」

 シグナムがくだらない物を見る時の、白けた視線で俺を見た。

「ヒモ生活を気にしてるニート侍のくせに」
「………………っっ!!」

 シグナムがすごい勢いで口を塞ぎにきた。でもって誰も聞いていなかったことを確認してから、
小声で静かに訊いてくる。

「……い、いつ気付いた……?」
「蕎麦茹でたあたり。何となくだったんだけど、当たってましたか」
「くっ……屈辱だ……!」

 こちらとしては軽く言ってみただけだったのだが、予想以上に気にしていたらしい。珍しく顔が
紅潮している気がする。

「いやまぁ大丈夫だって。クロノが仕事持ってきてくれるから。家計の手助けもできるって」
「ふ、ふむ。確かに、そうだな」
「そのおっぱいで」
「ななな何の話をしているッ!」
「牧場しぼり」

 いよいよ顔が赤くなってきたのはいいが、同時に表情が地獄の赤鬼のような顔をになった。おと
なしく口をつぐむ俺だった。

「折角おっぱいゆーとったのに入り損ねた。何やったの?」
「入らなくていいですッ! なんでもありません!」

 横から入ろうとするはやてに必死に訴えるシグナムだった。



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