現在冬真っ盛りなので家の中では長袖のTシャツを着ていたのだが、けつまずいた拍子に柱のさ
さくれに引っかけてしまった。肘のあたりに立派な穴があいた。

「弱った。これでは肘が丸見えだ。叩かれてビリッと来ること請け合いではないか」
「あ。それ、私もよくなる。波紋流れたみたいにビリビリするんよ、ぶつけると」
「オーノーだズラ」
「お仕置きされちまったズラ」

 はやてに報告し、とりあえず駄弁ってから、応急措置をということにはなった。しかしよく考え
ると、ジーパンならともかくTシャツに縫い目はちょっとアレだと気付く。どうしよう。

「直し屋さんに持ってくのもなぁ。遠いし」
「はやてちゃん? どうしたんですか?」
「あ、シャマル。あのなあのな、腕のとこに穴が空いてしもーたん」
「ふさがねばならんのだが、あまりやったことが……シャマル先生? シャマル先生!?」

 顔面から一気に血の気が引いていくシャマル先生、あたふたテンパってお医者さんに電話しよう
とする。もちろん腕に穴が空いたわけではない。はやても別に故意ではなかったらしく、なんとか
なだめて落ち着かせる。

「ふと思ったけど、ここはむしろ自分で治療魔法使う場面じゃなかったのか」
「あ……え、えっと、も、もちろんです。そそ、そうしようとは思ってましたけれどもっ」

 嘘つけ。119番プッシュしようとしてただろ。

「そっ、それはともかく……穴が空いちゃったんですか? お洋服に?」
「そう。腕ではなく、服に。断じて腕ではなく、服の方に」
「…………は、はやてちゃん、ど、ど、どの部分ですか?」
「肘が破けたんやけど、血が出たわけやないからなー。救急車は必要あらへんからなー」
「……ご、ご、ごめんなさぁいいっ……」

 誤魔化しが利かないと悟ったらしく、ごめんなさいが出てきたので許してあげることにする。腕
をくるりとひねって、穴が空いた部分を見せる。

「これは……派手に空いちゃいましたね」
「どうするか困った。縫い合わせるにも縫い目が残るし」
「Tシャツってどうやって直すんやろ。あんまりやったことあらへんなぁ」
「あの……普通に直しますか? それよりいっそのこと、半袖にリフォームしたらどうですか?」

 名案だった。ちょうど俺の半袖が足りなかったところなのだ。

「なるほどー。ほな、袖の縫い方だけグーグル先生に聞いとこか!」
「あ。わたし、出来ますけど……」
「グーグル先生の代役ができると申すか! すごい、すごいぞシャマル先生!」
「ちっ、ちがいます! 縫い方の方ですよっ!」

 シャマル先生がネットワーク社会を制したかと思ったが、残念ながら違うらしい。

「……ちょい待った。シャマル、お裁縫できるん?」
「はい。大丈夫ですけど……お裁縫セット、持ってきましょうか?」
「いや俺が持ってくる。ついでにこれ脱いで着替えてくる。いい?」
「ん。なら、私は夕飯の準備しとるでなー」

 破けてしまったTシャツを着替えて、再び戻る。はやては料理をしにシグナムを連れてキッチン
に向かい、シャマル先生だけが待っていた。

「じゃあ切っておきますから、針にしつけの糸を通しておいてくれませんか?」

 細い白糸と縫い針を渡される。

「了解した。100分の40秒で支度しな!」
「お願いしますねっ。じゃあ……」
「できた」
「ええええっ!? は、早すぎませんか!?」

 本当に100分の40秒で支度したところ、シャマル先生にとても驚かれた。

「お袋とよく競ったせいだ。これでも一度しか勝てなかった」
「そうなんですか……あの、その一回って」
「針が指に」
「やっぱりそうですか」
「穴を潰された」
「どういう握力だったんですかっ!?」

 などと冗談混じりに話をしていると、いつの間にか袖が切られていた。あれよあれよと言う間に
作業が進み、いつの間にかミシンの登場。

「できましたっ!」
「早えぇよ」

 そしてあっという間に終わってる。

「おおおおお。すげぇ普通の半袖になってる。どこで身につけたんだか」
「お料理といっしょに練習してたんです・・・・・・あ、あの、どうですか? ヘンな所ありませんか?」

 不安そうにこちらを見てくるシャマル先生。ここは正直に答えてあげよう。

「半袖になってる」
「そ、それは最初からの話ですよ!?」

 と思ったら口が勝手に。思いっきり困惑された。

「冗談。これなら長く着られそうだ」
「よかったぁ……また何かあったら、ぜひ言ってくださいねっ」

 と言って、花のような笑顔を向けてくる。

「じゃあこのジーパンの穴を」
「ずっと前から空いてたじゃないですか……」

 もっと仕事をあげようとしたのだが、同じ穴でも勝手が違ったらしい。

「俺も練習しようかなぁ。はぐりんのぬいぐるみ作りたいし」
「あ……でしたら、教えてあげましょうか? ケーキのレシピと交換で!」
「ホットケーキなら」
「箱に書いてありますよ……ねるねるねるねの次にそれ練習しましたし……」

 とはいえ非常にありがたいので、縫い方をいろいろと教えてもらうことにした。まつり縫いをマ
スターしている間に、チョコレートケーキの良さげなレシピを紹介してあげました。

「一週間後、そこには何故かカカオ99%並の苦さになったミルクチョコケーキの姿が!」
「錬金術じゃないんですから……でも本当に、次のケーキはうまく焼けそうな気がします!」

 美味しいケーキに思いを馳せて、ニコニコと楽しみそうに笑うシャマル先生だった。





「……」
「シグナム。シグナムー? どうしたん、何かあるん?」
「あっ……も、申し訳ありません!」

 台所の方でそんな声が聞こえた気がした。



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