大晦日を翌日に控えた、十二月三十日。
 年が替わってしまう前に髪を切ろう、ということになった。そういえばしばらく切ってないので、
いつの間にか頭の上がうざったくなってきたところである。

「えー……あたしが切りたかったのに」

 出かける支度をしていると、ヴィータがそんなことを言った。意外なことに、髪にハサミを入れ
るのに興味があるらしい。はやてのも切ったことがあるとかないとか。

「残念ながら近くの床屋さんで切ることになってる」
「あたしがやる! あたしがやる!」
「いや、大掃除だし。人手減ると大変だし」
「じゃあ明日にしてやるからすぐ伸ばせよ」

 呪いの日本人形みたく扱われた事実に全俺が驚愕する。

「何がヴィータを惹きつけるのだろう。はやてでやってるなら別によくね?」
「えー。ほら、あれがやりたい。夏に高校野球観てたんだけど」

 それ以上は言われなくても理解した。今後絶対ヴィータにバリカンを持たせないように注意しよ
うと思う。たいへん危険なのでヴィータの手の届かない所に保管しよう。

「仕方ねーな。3センチくらい残してやるか」
「なんという曖昧3センチ」

 曖昧すぎて逆に不気味なことになりそうである。

「というか、ヴィータたちは髪伸びたりしないのか」
「ん? ああ。伸ばそうと思ったら伸ばせるけど、勝手に伸びたりはしねーな。身長といっしょだ」
「便利な」
「いーだろ」
「なになに? 何の話?」

 はやてが横から加わってきた。

「ヴィータが純粋なサイヤ人と同類だったって話」
「死の淵から蘇るとSSSランクになるん!?」
「はやて、それ無理」
「そんなぁ……」

 はやては残念そうな顔をした。

「……SSSの人よりリインの方が強くね?」

 それもそうかと納得された。割と核心だったようだった。





「頭切ってきた」
「輪切りのソルベ乙」

 別にボスの正体を探ろうとしたわけではなく、普通に床屋さんに行ってきました。

「何か寒い」
「短くなったなぁ……おぉ。ざりざりする」

 はやてが首の後ろあたりを指で触った。だいぶ短くなったので、じゃりじゃりじゃりと音がする。 

「あ、ほんとだ。いいなこれ、ざりざりして」

 ヴィータにまでざりざりやられた。

「あんまりやりすぎると、俺の髪が暴走してブヂュブヂュル潰しにかかる」
「ざりざりだけにザリガニと申したかー!」
「むしろラブデラックスじゃね?」

 とか話しながら、しばし弄ばれるのに任せる。窓ふきは午前中に終わっているし、年賀状も書き
終えた。あと残っているのは床掃除だけだ。そちらを開始する前に、とりあえずこたつで一休み。
皆集まってきて、熱いお茶で一服する。

「お疲れ」
「帰ったか。随分さっぱりしたな」
「しかし逆に寒くなった。ザッフィーはその点あったかそうだよね」
「元に戻ればだがな」

 直立してた方が掃除には便利なので、人間フォームに切り換えていたザフィーラであった。

「使わないなら毛皮くれよ」
「どうやって寄越せと言うのだ」

 こたつの中で足の指でつねられて痛かった。

「ところで思ったんだが、雑巾がけははぐりんたちの出番じゃね」
「……あ、それ、いいアイデアかもしれませんねっ。地面這ってますし、動きも速いですし!」

 しかしはぐりんたち、なんだか乗り気ではないようである。不安そうな目を向けてきたので、何
となく言いたいことを察する。

「や、自分の体を雑巾にするんじゃないから。雑巾押して歩くだけ」

 ほっと安心した様子のはぐりんたちだった。お煎餅を砕いてあげると、一個ずつあぐあぐ食べは
じめた。

「というわけで、だいぶ楽になりそうです」
「助かります。夕方までには終わりそうですね」
「終わったら門松引っぱり出しとこうか。ザッフィー後で手伝って」
「心得た」
「かどまつ?」

 大掃除の続きを考えたり、リインにお正月の知識を教えたりして過ごしてました。

「ざりざり」
「ざりざり」

 はやてとヴィータはそろそろやめてほしいと思う俺だった。



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