とりあえず話の前に、なのはをポッキーの刑に処す。

「説明しよう。ポッキーの刑とは、喋れないように次々とポッキーを口に突っ込む刑罰である!」

 本当はじゃがりこあたりでやってもいいんだが、かなり堅いのでポッキーに減刑してやったのだ。
ふはははありがたく思うがいいと言いながら、なのはの口に一本ずつポッキーを送り込む。具体的に
言うと、常に一本をくわえているペース。

「んうー……」

 ぽしぽし音を立てながら食べるなのはが、なんだか不満そうな表情で鼻を鳴らした。

「むぅ……んむ、んーっ」
「日本語でおk」

 手を止めると、噛んでいた分をごくりと飲みこむ。

「……けーとくん、わたし、トッポの方が好きなんだけど」
「じゃあ望み通りトッポで再開してやろう」

 冗談だようやめてよう、と弁解するのでやめてやる。

「そもそも、どうしてわたし、こんなことされてるんだろう……」

 なんだかやるせなさそうななのはだった。見ていたフェイトとユーノが曖昧に笑い、アルフがやれ
やれまたこいつはという感じの表情をする。
 とそんなとき、こぽこぽと鳴っていたコーヒーメーカーの音が止まったのに気付く。
 砂糖を入れたマグカップを取って、ひとつひとつ注いでいく。それを契機にリンディさんやクロノ
が、再びなのはたちの近くに集まっていった。

「さて。話はまとまったのか?」

 話はコーヒーが入ってから、ということにしてあったのである。話す内容をまとめておくという口
実で。

「まだ」
「まだか」
「まとまった」
「まとまったか」

 ソファに座ったクロノにミルク少なめのマグカップを渡し、俺も隣に腰かける。視線が集まってく
るのを感じながら、ぼちぼち話をはじめることにした。まずこの世界の出身じゃないってことから。

「俺の本当の故郷なんですが。ここに来る前にいたところ」
「そこからか。で、どこだ? どこから来たんだ?」
「VIPからきますた」

 反射的に間違えちまった。クロノが首をかしげてみせた。

「ピップエレキバン?」

 なのはが何やら口にしたけど、どこをどう聞き間違えたらこうなるのか。

「そういえば、あれってどうなってんだろ。やっぱ磁力なんか」
「え? えーと、エレキだから、電気じゃないのかな」

 あれれ。と考えはじめるなのはだったが、俺としてはそれ以上の事実に気付いてしまった。

「なのはが英語……だと……?」

 今までの常識がひっくりかえるくらいの、驚愕に値する事実であった。

「そっ、そのくらいわかるもん! バカにしないでよ!」

 聞いてたなのはがぷりぷり怒った。

「話はどうなったんだ」

 見ていたクロノがほとほと呆れた。





「要約すると、つまり……次元漂流者、でいいのかな?」
「もう多分戻れない世界ですけど。それでも漂流者になるならそれで」

 リンディさんの言葉に答える。その前の成り行きが成り行きだったため、ここの地球とめっちゃ似
てる別な世界から飛ばされましたと言っても、ちょっと納得してもらえるまで手間取った。特にアル
フ辺りがなんとも。

「けーとくん、この世界の人じゃなかったんだ……」
「一応、予感は当たっていたということか」
「あれ。何かヒントっぽいのあった?」
「以前僕に誕生日を教えたとき、日付を迷っていただろう?」

 いくらなんでもさすがにそれは、ということになったらしい。地球に暦がいくつもあるのかと調べ
たけど、そうでもないと分かったし。という。

「まぁ、別の可能性もありはしたが」
「あ。じゃあ今日、クロノとフェイトが聞きたそうにしてたのって、俺の誕生日か」
「あ、うん。そう、です」
「もしくは、直接核心をついてもよかったけど」

 二人してうなずき、俺も納得する。つっかえていたものがすとんと落ちてきた感じ。

「気がついたら近くの公園にいました」
「こっちに飛ばされる直前、未来を夢で見たんだったな?」
「そうそう、そんな感じ。もう変わっちゃったけどね」

 でもって説明についてなんだけど、いきなりアニメの住人でうんたらと言ってもアレなので、こう
いうふうにしておいた。闇の書の件、やたら情報持ってたのはそれです。と言うと納得してもらえた。

「念のために聞くが……こちらが本題なんだ。帰りたいと、思わないのか」
「こっちで天寿を全うする予定です」
「…………なら、いいんだ。それだけが心配だったから」

 これでクロノも、心配してくれていたらしい。何かお菓子を持ってきてあげることにする。

「けーとくん……ほ、本当に帰りたくないの?」
「帰りたくないでござる」

 お菓子の入った棚をあさっていると、なのはが何やら心配そうに、念を押すかの如く確認してきた。
否定してやると、良いのか悪いのかよくわからない、複雑な感じの表情になる。でも深く聞いてこな
いということは、たぶん何となく察してくれたんだろう。

「お。ちょうどよくポッキーがあった。ポッキーの刑の続きができそうだ」

 なのははフェイトの影に逃げ込んで、「人が心配してあげてるのにー!」と抗議した。

「あ……そういえば、けーとくんの誕生日っていつ?」
「2月30日」
「そっか……え? あれ? 2月って……28か29まででしょうっ、絶対違うよ!」

 嘘つき嘘つきとなじられた。アホの子でならしたなのはであるが、どうやらそこまでではなかった
らしい。仕方がないので、本当の誕生日を教えてやる。

「…………わ、わたしの方が……おねえさんだったんだ……」

 すると何やら衝撃を受けたような感じになって、一人で何かを考えはじめるなのはだった。なんだ
か面白そうなので、今話そうか迷ってたんだけど、俺の本当の年齢はしばらく黙っておこうと心に決
めた。

「話はおしまいです。じゃあトランプでもしながら、はやてたちを待ちますか」
「……重大な話だった気がするのだが。割とあっさり終わったな」
「そうだ、こっちのやつを使おう。このトランプ、JOKERをプレデターにしたんだった」
「お断りだよっ!」

 予備用の白紙のトランプでJOKERを自作したのだが、なのはには気に入ってもらえなかったよ
うだった。はやて遅いなーなどと話しながら、ポッキーを食べつつ大富豪なんかをして楽しむ俺たち
だった。




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