とりあえず具合の悪い人が約一名でてしまったので、パーティー三次会の開始はちょっとだけ見送
り。ひとまずそちらの介抱にあたることになった。
 幸いにも暑すぎて調子が悪くなっただけみたいなので、ひとまず八神家でゆっくり休んでもらうこ
とにする。シャマル先生が回復魔法使えば済むんじゃないかという話にはなったんだけど、そいつは
アリサとすずかがいるから却下されたのだ。

「ドッキリとはいえ、こんな厚着で暖房かかった部屋に待機させるとか」

 つめたいジュースの入ったコップを片手に、団扇でぱたぱたと風を送るはやて。ソファで横になっ
たグレアムのおっちゃんを介抱しながら、久しぶりのお説教である。相手はもちろん俺。

「と……年甲斐もなく張り切ったのが、失敗だったか……」
「……ドッキリどころの話ではありませんでした」
「私なんて、心臓止まるかと思いましたし」

 まだちょっとぐったりしてるおっちゃんだったが、特定の人にはドッキリの効果があったらしい。
 クロノとリンディさんは確かにものすんごい驚いてたので、一応報われたと言っていいのではなか
ろうか。

「よう久しぶり」
「久しぶりね。あんまりうれしくないけど」
「再会を喜べよ」
「十年くらい振りだったら喜んであげるわよ」

 とりあえずグレアムのおっちゃんの回復を待つということで、先にぬこたちにごあいさつ。
 とはいえ今日はアリサやすずかがいるので、耳とかしっぽとかは隠してもらってる。なんでも変身
魔法が得意ということなので、それを使った擬装法である。アルフの一件でもう疑念を抱かれている
状態なので、このカモフラージュは正直ありがたい。

「……あれ。どっちがどっちだ」
「はぁ……また忘れたの?」
「だってお前らどっちがどっちかわかんなくなるんだもの。似てるから」

 このやり取りも何回やったかわかんないんだけど、こいつらは髪型と声、あと態度くらいしか見分
ける部分がない。なかなか覚えられないので、いつもこんな風になってしまうのだ。

「覚えなさいよ……私がリーゼアリア。こっちがリーゼロッテだってば」
「いいよもう。二人まとめてロッテリアが分かりやすいって何度も言ってるじゃん」

 なのはたちがジュースを噴出し、クロノが笑いをこらえようとして耐えられてなかった。

「そっ、そのまとめ方はやめてって言ってるでしょう!?」
「わ、わ、笑うなクロスケ! おまえたちもぉお!!」

 顔真っ赤になって火消しに奔走するぬこたちだけど、全然功を奏してない。

「こんな愉快な人たちですが。どうかよろしくお願いします」
「アンタ、年上でもちゃんと手玉に取るのね」
「なんだろう……あの人たち。不思議なんだけど、仲良くなれそうな気がする」

 初見のアリサとすずかに、ぬこたちに代わって紹介してやる。すずかの反応が気になったが、そう
いやなのはの話だと猫好きとのことでした。

「ろ……ロッテリアって……!」
「たっ、確かに、名前、そうだけど……」

 アリサは後からじわじわ効いてきたらしく笑いをこらえ、すずかは笑っていいのかどうしようかと
いう複雑な表情になった。飛び火しまくりの現状に、もう首まで真っ赤っ赤のぬこたちは俺に向かっ
て恨めしそうな視線を向けるのだった。

「真っ赤なお顔のトナカイさんやなぁ」
「いつもみんなの笑いものですなぁ」

 はやてが言い始めたのに、すんごい勢いで追っかけまわされるのは俺だけだった。





 少しするとグレアムのおっちゃんが回復してきたらしく、ソファの上とはいえ起き上がる。

「情けないところを見せてしまったね」
「いえ……あの、は、はじめまして……になります?」
「そうだね。こうして会うのは、初めてになるか……」

 とか何とか、介抱していたはやてとのやりとりが始まる。口ぶりを見ている限り、調子はもう悪く
なさそうだ。横から聞いてるのもアレなので、とりあえず三次会の準備をしにキッチンに向かう。シ
ャマル先生にお手伝いを頼むと、横からリンディさんとなのはもひっついてきた。

「……」
「……」
「言っとくけどバトル開始したら、そいつらだけコーンスープが食塩水になるから」

 テーブルについた面子のうちヴィータとリインが、さっそくぬこ姉妹と睨み合っていた。一触即発
といった感じになってしまっているんだが、喧嘩とか好きくない。釘を刺してから調理を開始。

「ロッテリア」
「……ロッテリア」
「〜〜〜〜っ!」 
「こっ、このぉ……!」

 ヴィータが挑発し、リインが迷いながらも真似をした。超怒りだしそうになるロッテリア、ならぬ
ぬこ姉妹だったが、そこはなんとか堪えてみせた。偉いね。

「シャマル先生。ヴィータとリインだけポテト水浸しで」

 二人して半泣きになって必死にごめんなさいをしに来たので、兵糧攻めは勘弁してやるでござる。

「ったくあいつら。人のことからかって挑発するとは、言語道断」
「だったら毎日、わたしのことからかって遊んでるのは何なの……?」

 なのはからの突っ込みには、何と答えていいのかわからなかった。作業をシャマル先生にお任せし
て、そそくさと退散。クロノとフェイトがいるこたつに向かうと、気付いたクロノが尋ねてくる。

「……どうやってあの二人を抑えたんだ君は」
「自然とこうなった。どうも人外には強いタチらしく」
「理不尽にもほどがある……」
「そっ、それってすごいことなんじゃ……」

 フェイトが言うのはわかるんだが、実はそうでもなかったりする。さしあたっての目標はアルフに
お手をさせることなのだが、まだ達成できていないのだ。

「……それでなんだが、どうしてはやてと話を? 何かつながりがあったのか?」
「親の友人だったみたいで。その件でお話があるみたい……何ですかその疑わしげな目は」
「君はたまに、本当に隠すのがうまいことがあるからな」

 詳しい事情を俺の口から言うのははばかられるので誤魔化したのだが、訝しげな視線をむけられる
ことしきり。普段はわかりやすいんだが、と言うクロノは、勘がいいというか何というか。

「まぁいいでしょ。おっちゃん回復してきたし、パーティー中こっそり聞いてみたら?」
「そうしようか……と。ところで、料理はいいのか? キッチンから出てしまって」
「シャマル先生には二人監視役がついてるから。たぶん大丈夫だと思います」
「しっ、シグナム……ザフィーラも、失敗なんかしませんからぁっ!」
「悪く思うな。これも皆のためだ」
「口では何とでも言えるからな」

 キッチンから聞こえる声に苦笑するクロノたちだった。シャマル先生が必死というか泣きそうで、
シグナムとザフィーラは本気で警戒してる感じ。

「……まさか、こんな日がくるとは思わなかったよ」
「クロノが親父くせぇ気がする」
「なぁなぁ聞いて! プレゼント、プレゼントもろーたよ!」

 料理ができるまで、そんな感じに話すのでした。



前へ 目次へ 次へ