廃液の中の有機化合物か……超強酸に溶け出した重金属イオン……
 あるいはそれら全てが水銀の中で出会ってしまい――化学反応を起こしスパーク……!

「それを拾ったって言うわけ?」
「そうそうそう。工場跡地でたまたま拾って懐かれた」

 はぐりんたちをこたつの上に置きながら、とりあえずアリサとすずかの説得に当たる。
 なのはが魔法はいつか自分の口から話したいから、今は今だけはどうしてもと頼み込むのだ。苦し
い説明だと分かっているが、まぁそれが信じてもらえなかったとしても、話せないっていうことがわ
かってもらえればいいだろう。

「よくあるよねこういうの。段ボールの中に捨てられてたら拾っちゃうじゃん!」
「はぐれメタルはふつう段ボールに捨てられてないよ……」
「それにあっちの人は……どこかで会った気がするんだけど……」
「さっきの耳と尻尾はこれです。パーティーアイテムの装飾品で、着用するとこんな感じになります」
「き、きゅうん。くー、ひゅーん」

 パーティー用に買っといてよかった、各色のわんこ変身セット。赤いやつを装備したなのはが鼻を
鳴らして、必死の演技を試みる。
 現在アルフは耳と尻尾をうまく隠しているため、これさえ説得できればあとはどうとでもなるので
ある。ヴィータが回してるカメラの電子音が聞こえるが、そんなことを気にしている余裕はないみた
い。気付いてないだけかもしれないけど。

「動いてないじゃない」
「気のせいじゃね?」

 もちろん尻尾が動いたりはしない。そこは気合いで誤魔化すしかない。

「……わかったわよ。どーしても言いたくないって訳ね」

 そのうちアリサが、諦めたように言った。どうやらとっくに意図はバレていたらしい。

「近いうちにお話するので、そのあの、しばらくご勘弁くださいです」
「べっつに。アンタの行動が突拍子ないのはいつものことだし。いいわよ、もう」

 まったく仕方ないわね、とアリサはぼやいた。なのはがほっとした顔になる。
 要するに日ごろの行いが良かったらしい。八神家での出来事ということで、なのはとは直接むすび
つかなかったのも幸いしたのかもしれぬ。

「ね、ねぇ……こ、怖くないの? その子たちのこと」
「ん? まぁ特には。普通に飯食ったり風呂入ったりするし……何で?」
「う、ううん、何でもないよっ」

 言ってやると、何かを考えるような素振りを見せるすずかだった。どうしたんだろう。

「……きゅーん」

 と思っていると、いつの間にか置いてけぼりになっていたなのはが、手持無沙汰に小さく鳴いた。

「はぐりんより先にこいつに餌やろうぜ」
「な、なのはちゃん、似合いすぎ……」
「はい、あーんしなさい。あーん」
「あ、あーん」

 普通に遊ばれるなのはだった。





「何とかなりました」
「あの状況からどうにかなるもんなのか」
「どうやって説得したのかしら……」

 台所に向かい、どうにかセーフとのご報告。
 どうやったのかと問われると、その場のノリ的な何かとしか答えようがない。
 もしくはなのはの身体を張ったファインプレーと言った方がいいのかも知れない。あれで「まぁい
いか」的な雰囲気に持って行けたのは大きかった気がする。

「……さっきの映像、第3期に公開したらどーなるんだか」

 やっぱりヴィータは撮っていやがった。

「なのはも割とノリノリだったし。新人たちの畏敬の念が吹っ飛んじまうんじゃなかろうか」
「教え子に振り回される教育実習生か。見てみてーな」
「でもでも、すっごく可愛かったですよっ!」

 オーブンレンジで肉を焼いてるシャマル先生が言う。皿を運んでいる時に見えたのだそうだ。

「もうなのはは八神家で飼育されとけばよくね」

 いつの間にか隣に来ていたなのはが、顔真っ赤にしてふくらはぎにへなちょこキックを浴びせてく
るのだった。
 とかやりながら俺も作業に加わり、なのはもささやかながら皿運びやら何やらで応援に入る。
 料理を作る段階はほぼ終わっていたので、肉が焼けたらもう大丈夫といった感じだ。フランスパン
を切ったり皿に野菜盛ったり。 

「あれ、シグナム。どうしたの」
「……き、気にするな。作業に集中していてくれ」

 ちょうど焼き上がったお肉の盛り付け作業中、後ろの方でじっとシグナムが手元を見つめてくるの
に気が付いた。しかし口出しするとあんまり良いことにはならなさそうなので、黙って作業を続ける
ことにする。リンディさんとシャマル先生が微妙にニコニコしてるのが気になるけど。

「さてできました。ハイパーディナータイムでござる」
「……小学生の作品とは思えないわね……」
「はやては分かるけど、お前ってたまにすごいチートだよな」
「3年チャーハン作り続けるとこうなります」

 嘘吐くんじゃねぇふざけんなとののしられつつ、リンディさんにお手伝いありがとうございますと
告げる。テレビ見たり雑談したりで待ってた連中に声をかけ、テーブルとこたつの2か所の席に座っ
てもらう。

「じゃあ食べましょうか……ん? 何か忘れてるような……」
「え? ……そんな。料理でしたら、全部ちゃんとそろってますし……」

 いただきますをしようとした時、何か足りないような気がした。
 しかしどうにも思い出せない。食事の前に、何かイベントの仕込みをしていたような気がするんだ
けど。

「まぁいいさね。いただきましょうか」
「いたがきます」
「いたがきます」

 きっと大丈夫、ということで、楽しい楽しい夕食の時間が始まるのでした。





 と思ったらいきなり後頭部を叩かれてびっくりする。

「お、お前、お前っ……!」
「まぁいいで済ませるなっ、こんな格好させたまま待たせるなっ!」
「あ、アリア、ロッテ!? …………な、何だその格好?」

 振りかえるとそこには、何とトナカイのカチューシャと茶色のドレスを着こんだぬこ姉妹の姿が!

「この服は……あ、暑すぎ……る」

 でもって誰かがドアを抜けたと思ったら、ばたりと倒れこんだのはサンタスーツ着込んだグレアム
さんだった。

「ぐっ、ぐ、ぐ、グレアム提督! な、何故、どうして!?」
「……どうなってんのか、1から10まで説明してもらおーか」

 慌てて看病に向かうシャマル先生とはやて、あとクロノやリンディさんの気持ちを代弁して、ヴィ
ータがものすごい形相で問い詰めてくるのでした。



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