面子がそろってしばらく時間が経ったので、翠屋に行って二次会としゃれ込むことになりました。
 途中で八神家の方にグレアムのおっちゃんが来ると待ちぼうけ状態になるので、はぐりんたちにお
留守番をお願いしておいた。ケーキを買って持ち帰り、それが報酬ということで。
 言葉は通じないけどちっこいホワイトボードにメッセージを残しておいたので、それを見せれば多
分大丈夫。あいつら玄関の鍵開けられるし。運動したそうにしていたので、空き巣が来たら黒コゲに
してくれそうだし。

「……お……おっ、ひ、さ、しっ、ぶっ」

 しかしドアを開けると、そこには士郎さんの姿が。
 別に般若の面みたいな顔をしてるとかっていうわけじゃないんだけど、口が上手く回らなくなる俺
だった。以前(その12参照)ちょっと怖い目にあってしまい、それ以来苦手意識ができてしまった
のである。あれ以来、まともに顔を合わせる機会があんまりなかったのだが。

「そ、そこまで怖がらなくても……大丈夫かい?」

 あんまりにも目に見えて恐怖していたためか、逆に士郎さんから心配される。

「そ、そ、そっ、その節はっ、平に、ひら」
「平井銀二」
「絞られる奪われる」
「殺される…!」

 後ろからはやてとヴィータが続けて妙な事を言うので、思わずタイムリーにものすごいことを口走
ってしまった。一瞬してから我にかえり、二人まとめて久々にこめかみぐりぐりの報復をお見舞いし
てやる。涙目でやめてやめて言ってるけど許さない。

「あ……アリサちゃん、みんな来たよっ!」
「やっと来たわね。待ちくたびれたわよ、もう」

 後ろからすずかと、遅れてアリサがひょっこり顔を出した。こちらとしては既にカオス極まりない
状態になっていたため、非常に助かった形になる。

「……珍しいわね。いつもと立場が逆じゃない」
「じわじわとなぶり殺しにしてくれる」
「それはむしろ覚醒なのはちゃんがティアナに……あっ、あぁあっ! にああ゛あ゛あぁ!」
「あだだだぁっ! よっ、よせ、頼むから離しああああ!!」

 そんな感じに落とし前をつけてから、とりあえず皆で席に(店外のテーブル)つく。攻撃を受けた
直後のはやてとヴィータは、シグナムとシャマル先生に運ばれて行った。
 二人ともいたいよーいたいよー言いながら恨めしそうな目を向けていた。でもあいつらが悪いので
知ったこっちゃないです。

「あれ? ユーノが……どうして?」
「美由紀さんたちが会いたそうにしてたそうだから。フェレットモードで参加だって」

 フェイトが不思議そうにつぶやいているので、こっそり事情を教えてあげた。
 現在ユーノは高町家と再会を果たして可愛がられてます。なのはが何かボロを出すかも知れんし、
まぁこれでちょうどいいのかも。アルフもいろいろ食べて眠くなったためか、わんこモードになって
フェイトの膝の上で大人しくしてるし。

「ちょっとしたらユーノは戻るって。アルフもそうらしいし、その後は中に行こう」
「そこ。何こそこそ話してんの」

 ツンデレアリサに見つかった。

「久しぶりだね。元気にしてた?」
「あ……うん。すずかも……」
「あれ知ってるの? 初顔合わせだと思ったんだが」
「なのはの家に遊びに行ったとき、一度だけ会ったのよ」

 実は俺の知らないところで交流が進んでいたらしい。もうほとんど覚えてないけど、原作だとどう
だったっけ。

「来年からの聖祥の編入試験受けるって。たまに勉強見てるけど、いい線行って……なに?」
「……その勉強見てるアンタって、実は結構頭いいってこと? 意外ね」
「それなりには。少なくともなのはよりは」
「みっ、見ててよっ。次のテストは八十点……ううん、九十点だって取ってみせるんだからっ!」

 負けないよっ、と意気込みを見せるなのはだった。その意気自体は応援したくなるんだが、果たし
て元大学生に追い付ける日は来るのだろうか。

「そういえば、今日は終業式よね。通信簿も配られてるのかしら?」
「あっ、はい。今日ですよっ」

 桃子さんとすずかの声を聞いたなのはが硬直し、表情がさっと変わるのを、正面にいた俺とアリサ
トだけが見ていた。

「九十点?」
「九十点?」
「……きゅ、きゅうじゅってん……」

 九十点。





 そのうちお菓子やら軽い料理やらが運ばれてきて、パーティーは再開。色々な人と初対面だったシ
グナムたちの挨拶が済んでから、再び楽しい楽しい時間が戻ってきた。
 しばらくすると桃子さん発案で、お菓子の正体何だろうゲームなんてものが開催された。目隠し
して食べたパイやらシューやらの中身を当てるゲームなのだが、これがなかなか難しい。翠屋のメニ
ューなら間違えない自信はあるのだが、新作予定のお菓子まで色々出てくるのでなかなか当たらん。

「……これは実は、新作の試食も兼ねていたりするのでしょうか」
「あら……ふふっ、正解。みんなの口に合えばいいんだけど、どうかしら?」

 商売人恐るべし。どれもこれも美味いし、この手際。

「……もっ、桃子さん。あ、あのう、今度、ケーキ作りを、教わりに来てもいいですかっ?」
「え? ……ええ、喜んで! シャマルさんでしたら、きっと上達しますよ」

 いつの間にか横合いからシャマル先生が、そんなお願い事をしていたのはさておく。
 ……試食して撃沈くらうのはそう遠い日でもないのかも知れない。今度なのはを通して警告してお
こうと心に誓った。

「ああ……そうか、君が玉坂くんか」

 でもってパーティーも進み、ふと横を見ると、高校生くらいの男の人が近くの席に座っていた。
 誰だろうかと一瞬思ったけれど、そうだなのはの兄さんだ。前写真見せてもらったんだった。会っ
たことはなかったけど。

「そ、そんなに珍しい顔はしてないと思うんだが……何かついてるか?」
「あ、いや、その、すみませんです。ぼけっとしてて」

 思わずじっと見てしまう。エロゲの主人公を生で見るのが初めてだったのでつい。

「なのはと仲良くしてくれてるんだってね。一度会ってみたかったんだ。ありがとう」
「言おうとしたことを全部持って行かないでくれよ……」

 士郎さんが向こうの方から歩いてくるのも見える。そういやさっきは有耶無耶になったままだ。こ
こはきちんと謝っておかねば。

「あのですね士郎さんその、いつぞやのサクランボうんたらはその、単なる冗談のつもりで」
「ああ。初対面で、君が一目散に逃げ帰ったときのあれかい?」
「お前って謝るか逃げ回るかだよな基本」

 仕返しのつもりか、ヴィータが後ろからうるさい。

「仲良うしとるっていうか、遊び倒しとるだけやけどなー」

 ぐりぐりの恨みか、はやてが背後からとてもうるさい。

「いやいや、そうでもないさ。聞いたことはないと思うけど、家では楽しそうに話すんだよ」
「それはちょっと予想外な……」
「昨日はどうやって仲直りしよう、どうしよう、って相談されたな。あれには参ったよ」

 知らなかった事実を聞いて、ちょっと驚くオリーシュでした。ということは、割といい友達やって
られてるのだろうか。はやての言うとおり遊びまくってるだけだけど。

「そーなのかー」
「……うん? うん。そうなんだが……」

 ネタが通じなくて困る。このままだとヘンな子扱いされてしまう予感!

「あ。桃子さん桃子さん、今日こそケーキの寸評をいただきたいのですが。厳しめで」

 ちょうどよく桃子さんが通りがかったので、慌てて呼び止める。なんだか微妙な空気になってしま
っていたので、これで一気に挽回をはかる!

「何だ。自分で焼いてきたのか? すごいな」
「昨日から準備してまして。一次会では好評だったんで、皆さんどうぞ」
「いい色に焼けてるわね……じゃあ、一切れいただくわ」
「お願いします。アリサもすずかも、こっちにチョコケーキあるよー」

 一次会では会えなかった面子を交えて、引き続き楽しい時を過ごす企業バンダイの提供でお送りし
ます。

「昔は超大企業、ゴラン・ノス・ポンサーがあると信じてました」
「月極コンツェルンと同じ原理やな」
「あっ、あれ、違うんですか? いたるところの駐車場に書いてあるから、私てっきり……」

 シャマル先生……。





「あ……久しぶりね、お前たち」
「何これ。書き置き……待ってろって?」
「入れ違いか……待たせてもらおう。日本も、冬は冷えるな」

 そして八神家では、秘密裏にサプライズの準備が整いつつあるのだった。



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