「シグナムたちってお酒は何が好きだっけ?」

 パーティーを翌日に控え、部屋を飾りつけたりツリーを出したり。そんな準備を進めているうち、
ふと気になったので尋ねてみた。そういえば飲んでるところを見たことがない。

「……そういえば、久しく飲んでいないな」
「そうですね。こちらに来てからも、一度も……すっかり忘れていました」
「こっちのお酒はいろいろあるけど、飲むときは潰れるまで飲まなきゃいけない習わしが」
「十年くらい後が楽しみやな」

 酔っぱらったシャマル先生とか見てみたかったのだが、聞かれてはいけない人間に聞かれてしまっ
た。将来的に酷い目に遭わされそうな気がするので、嘘つきましたごめんなさいと素直に謝る。

「またやってる……」

 フェイトと一緒に手伝いに来ていたなのははこの光景には慣れっこのようだ。驚くこともなくただ
見ているだけである。

「だって酔ったシャマル先生とか見てみたいし。俺の予想だと相当ふにゃふにゃになるはず」
「見てみたいのは同感だけどな。泣き上戸のようなイメージはすんだけど、どうだったっけ?」
「さっ、さぁ……ずっと前ですから、覚えてないです……」
「というか、酔うほどお酒は出さへんよ。メンバーほとんど未成年やし」

 よく考えれば確かにそうだ。グレアムのおっちゃんはいろいろ話するって言ってたから、あんまり
飲まなさそうだしなぁ。

「よっしゃ。これでツリー完成やな」

 はやてたちがてきぱきと作業を続けていたため、いつの間にかツリーが完成間近。あとは最後の星
を頂上につけるだけ。

「はやて、その……てっぺんの星、つけていいかな……」
「あっ。わっ、わたしもっ」
「あ、う。えと、この役はやなぁ……」
「もうやっちゃいましたがな」

 最後の飾りをやりたがっているフェイトなのははやてを尻目にさっさと星をつけちゃったのだが、
どうもお気に召さなかったらしく、なのはとはやてに松葉杖で肩胛骨をぐりぐりされた。それでもっ
て悶えている間に星は外され、三人でわざわざもう一度つけ直される。何この理不尽。

「……お前らなんて、十年後に三人で百合ってればいいんだ」
「や、私、絡むなら男の子がええんやけど」
「そうなのか。でも原作だと、同じベッドで寝てるシーンがあったような」

 余程ショックだったらしく、はやてがずずーんと沈み込んだ。

「けーとくん、ゲンサクってなに?」
「ユリ……?」

 誤魔化すのに苦労した。





 準備が終わったので、前夜祭でござる。おのおのがた、前夜祭でござる。

「明日もあるから、あんまりはしゃいでも仕方ないんやけどな」
「とりあえずなのはとフェイトにホラー映画見せるくらいはやりたいんですが」

 なのはがじりじりと後退し、そろりそろりと部屋から出ようとする。

「なのはをキャプチャーしました」

 つかまえる。

「何処へ行くつもりでありまするか」
「えっ、え、と……そ、外の空気がね? 吸いたくなって……」
「もしかして恐いんですか。魔法使えるくせにホラーものが駄目な泣き虫でござるか」
「なっ、なぁっ! 泣き虫じゃないもん! そんなのぜんぜん平気だよ!」

 なのはから言質を取った。フェイトは大丈夫みたいなので、さっそく鑑賞させることにする。

「……」
「……ぁ……ぁ」
「うええぇぇ……ぇぇっ……」

 雰囲気に耐えられなくなったのか、開始から二十分と経たずに限界が来た。俺の背にまわってテレ
ビが見えないようにして、弱弱しい声を上げてめそめそ泣きはじめる。

「…………あ゛あ゛あ゛ああああ゛あ゛あ゛!!」
「わあああああ!! ああああああ! わああああああ!!」

 仮面着けたリンクみたいな叫び声を出してみると案の定、なのはがすんごい悲鳴をあげる。

「わたしらの心臓まで止める気か」

 はやての松葉杖がみぞおちに直撃し、嘔吐感という嘔吐感に悶え苦しむ。

「……っ! ……っ!!」

 悶えている間に、まだ顔真っ赤で涙目になったなのはが余ってたクリスマスツリーの飾りを投げま
くってきた。腕力ないから勢いは弱いんだけど、星型のがあって刺さったりするから地味に痛い。

「……冗談のつもりだったのに……だってまだ序盤じゃないですか……」
「まぁ確かに、まだゾンビのゾの字も出てきとらんけど」
「なのは、わたしの魔法の時はぜんぜん怯まなかったのに……」
「だっ、だって……だってだって、だって……だってぇ……っ」

 わたわた手を振るなのはだけど、怖いモンスターがダメな魔法使いってどうなんだろう、というの
は全員の共通意見みたいだ。フェイトは意外そうにしているけど。

「もっ、もう! けーとくんにはプレゼントあげない!」
「えー」
「えー、じゃないよっ! ぜったいぜったいあげないんだからっ!」

 とか言ってなのはは半泣きのまま帰ってしまい、フェイトもそれを追いかけて行った。クリスマス
直前なんだけど、今回はさすがにやりすぎたかもしれません。

「悪いことしたかも。明日あやまろうか」
「そーしとき。砲撃プレゼントされるかもしれへんし」

 さすがにそれは死ぬかもしれないので、今から何を言うかいろいろと考えることにする。

「プレゼントくれよ」
「そんなに砲撃が欲しいんか」
「グミくれよぉ!」
「やーだよっ」

 なかなか思い浮かばなくて困る俺だった。





「……で、どうしてシャマルが気を失ってんだ?」
「いや、その……高町の悲鳴がとどめだったみたいなんだが」
「その前から結構震えてはいたがな」

 はぁと溜め息を吐く一同だった。



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